弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2005年8月 3日

イラクー湾岸戦争の子どもたち

著者:森住 卓、出版社:高文研
 1991年1月に始まり、わずか43日間で終わった湾岸戦争が終わって7年後の1998年にイラクへ行った写真家による写真集です。劣化ウラン弾が今なお大勢のイラク人とりわけ子どもたちを苦しめていることがよく分かります。
 劣化ウランは半世紀に及ぶ核兵器や核燃料の生産過程で生み出される。だから、総計 110万トンの半分近くがアメリカ(47万トン)であり、ロシア(43万トン)。しかし、日本も2600トンも生み出している。これは放射性廃棄物として厳重に管理・保管しなければならない。そのためには莫大な費用がかかる。
 ところが、劣化ウランが固くて重いことに着目してアメリカの兵器産業は兵器に利用することを考えついた。劣化ウラン弾は戦車に命中すると、分厚い装甲を貫通し、その摩擦熱で一気に燃焼させて乗員を焼き尽くす。同時に煙霧状(エアロゾル)化する。これは広範囲に拡散する。
 巡航ミサイル・トマホークも劣化ウラン弾がつかわれた。結局、広島に落とされた原爆の2万倍から3万倍の放射能がペルシャ湾岸地方にばらまかれた。その結果どうなったか。イラク南部のバスラ市では、湾岸戦争前の1988年にガンで死亡した人は34人だった。ところが、1996年219人、98年428人、00年に586人、01年には608人と急増した。
 無脳症の赤ちゃんの写真があります。生まれたときから頭部の上半分が欠損しています。口から泡を吐き出し、何時間も生きてはおれません。白血病に苦しむ子どもたちもたくさんいます。治療薬のため頭髪が抜けおちてツルツル頭となった少年のつぶらな瞳が印象的です。
 ミルクが買えないため栄養失調で死にかけている赤ちゃんは、ガリガリで顔が尖っています。水頭症の赤ちゃん、皮膚ガンの少年、腹水がたまってお腹がポンポンに膨れあがっ
た少年の写真が次から次へ紹介されています。子ども専用の墓地もあります。一日に4、5人が埋葬されます。広い墓地にたくさんの墓標が見えます。どれもこれも目を逸けたくなるものです。でも、私たちは現実をしっかり見つめるべきです。
 そんななかでも、イラクの子どもたちの目が輝いているのが救いです。学校はスシ詰め。遅れて登校すると座る机もありません。床にすわりこんでノートをとります。
 いったいイラク戦争とは何だったのか。それはイラクの人々に何をもたらしたのかを考えさせる貴重な写真集です。

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