弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2005年5月18日

カストロ

著者:レイセスター・コルトマン、出版社:大月書店
 著者はイギリス人。元駐キューバ英国大使だった人です。カストロについて書かれた本を読むのは2冊目です。モンカダ兵営襲撃事件がいかにも血気盛んな青年たちの暴発のようなものであり、よくぞカストロが生き延びられたと感心しました。また、グランマ号に乗ってキューバに進攻したのも、初めからうまくいったわけではありませんでした。大勢の仲間を失って山地へ逃れたあと、徐々に勢力を回復していった実情を知り、革命とは死と紙一重のたたかいなんだと改めて思い知りました。
 カストロは人口1100万人の島に既に40年間も君臨する「独裁者」です。共産党一党独裁で、反対政党は許しません。ところが、悪いニュースや恥になるような問題を国民に隠すことがほとんどありません。ですから、多くのキューバ人が自分の国の政治に関わっているという意識を持っています。なにしろ、北朝鮮と違って、カストロは大衆の面前で、延々何時間も話し続けるのです。何をそんなに話すことがあるのか不思議なほどです。国連総会でも4時間半の演説をしたという最長記録があります。よその国の人は退屈したに違いありませんが、キューバ人は辛抱強いのでしょうか。それとも、よほどカストロの話が面白いのでしょうか・・・。
 アメリカの大統領は、この間、9人も変わったというのに、ちっぽけな国の「独裁者」はただ1人続いているのです。この本は、カストロが政治家として権謀術数をめぐらして権力を維持してきたことを冷静なタッチで暴いています。なるほどと思いました。
 キューバ人の平均寿命は76.15歳。小学校は教師1人に生徒20人。中学校は15人。ですから、文盲率は0.2%。住民163人に医師1人。投票率は95%以上。教育と医療は完全に無料。新聞によると、ベネズエラに今キューバ人医師が1万人以上も派遣されていて、その代償として石油をもらっているそうです。
 ところが、学生や看護師たちが臨時収入を目当てに売春に走るという現実もあります。メキシコやスペインから多勢の中年男性が飛行機に乗って買春にやって来るのです。
 カストロは弁護士でもありました。ハバナ大学法学部を卒業して弁護士になったのです。このころは共産党とは一線を画していました。ストライキのために解雇された労働者、土地から追い出された農民、暴動をおこして投獄された学生の弁護も引き受けていました。
 カストロは非暴力主義者ではありませんでした。山に入ったあと、農民がスパイとなってカストロの居場所を権力に通報していることを知ったときには処刑させてもいます。
 カストロはアメリカと同じようにソ連も嫌っていたようです。私はヤンキー帝国主義と同じくらいソビエト帝国主義が嫌いなんだ。このように叫んだという話が紹介されています。アメリカがケネディ大統領の時代に亡命キューバ人などを応援してキューバに侵攻したことがあります。ピッグズ湾事件です。このとき、アメリカは見事に失敗しました。ケネディ大統領はこの失敗の責任を追及されて暗殺されたという説は今も有力です。
 また、キューバ危機のときには、カストロは交渉のカヤの外におかれていて地団駄を踏んでいた様子も紹介されています。ソ連の軍事力を過信していたわけです。
 カストロの女性遍歴もかなり詳しく紹介されています。国民に国家の重大事を公開するのを原則としているカストロですが、自分の私生活は別です。まさに国家機密とされ、国民には知らされませんでした。何人もの女性との間に多勢の子どもが生まれたようです。でも、北朝鮮のように後継者にすることはありませんでした。そこは明らかに違います。
 なにしろ、首相が自宅からボディガードもつけずに自転車で通勤するという国なのです。カストロの親族だって、物を買うのに行列に並ぶのはあたり前。この国には珍しいことに特権階級が見当たらないといいます。本当かしら、と思いますが、どうも本当のようです。もし間違っていたら、教えてください。
 日本から遠い国ですが、一度ぜひ行ってみたいですね。

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