弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2003年12月 1日

健康帝国ナチス

著者:ロバート・N・プロクター、出版社:草思社
 ヒトラーは菜食主義者で、酒もタバコもたしなまず、同席の者にもそれを許さなかった(ただし、ヒトラーは大変な甘党で、1日にチョコレートを1キロも食べた。また、イセエビ、ロブスター、カニを異常なほど好んだ)。ナチス時代、ガン撲滅運動が盛んで、そのプロパガンダの中心は「早期発見」だった。とくに女性のガン検診を促す運動は何倍にも強化された。ガンの精密検査を受けた女性は何十万人にものぼった。ガン患者登録所も設立された。栄養摂取は個人の問題ではない。ドイツ国民の肉体はドイツ国家の資産なのだ。国家はすなわち総統と同一なのだから、当然、国民の身体は総統に属する。「おまえの身体は総統のもの」というのが、ナチスの宣伝ポスターのスローガンだった。ナチスは合成着色料・合成保存料を使わない自然食をすすめた。脂肪が少なく繊維質の多い物を食べ、コーヒー、アルコール、タバコのような刺激物をできるだけ控える。肉類は最低限にし、保存料の入った缶詰より、できるだけ生鮮食料品をとるようにすすめた。1993年のはじめ、ナチスはアルコール撲滅作戦を始めた。「国民労働の日」が設立されたが、アルコール抜きの日とされた。ナチスの反アルコール運動は交通事故防止も目的としていた。1930年代のドイツでは、年間の交通事故が25万件をこえ、死亡事故1万件だった。その大きな原因がアルコールだった。ナチスの意外な側面を識った思いだ。

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