弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2012年12月13日

勝てないアメリカ

アメリカ

著者  大治 朋子 、 出版  岩波新書

世界中で戦争を仕掛けてまわっているアメリカは、同時に多くのアメリカ人をダメにしています。残酷な現実です。多くの戦死者を出すだけでなく、普通の日常生活を過ごせなくなった青年をたくさんかかえています。日本の自衛隊を「国防軍」にしてしまったら、アメリカのように日本もなってしまうでしょう。恐ろしいことです。
「世界最強」のアメリカ軍がこんなに長く戦い続けても勝利宣言をできないのはなぜか?ちゃちな兵器しかもたない武装勢力のゲリラ的な闘いに、圧倒的な戦力を誇る超ハイテク集団のアメリカ軍が勝てないのはなぜなのか?
 日本は、そんなアメリカの戦争に対して、2012年から5年間のうちに2400億円(130億ドル)の支援を表明している。ええーっ、ウソでしょ、そんなお金があるんだったら、福祉、年金のほうにまわしてよ、こう叫びたくなります。
 イラクやアフガニスタンでアメリカ軍を脅かしているのは、わずか10ドルでつくられる手製の路肩爆弾だ。手製爆弾はアメリカ兵の死亡(3100人)の原因の3分の2を占めている。そこで、ペンタゴン(アメリカ国防総省)は過去4年間で100億ドルを投入して対策の研究を続けている。しかし、有効な対策は見つかっていない。
アメリカの帰還兵にみられる軽度のTBI(外傷性脳損傷)の典型的な症状は、記憶障害や反応力の低下だ。
 IED(路肩爆弾)の爆発で生じる超音速(秒速340メートル以上)の爆風にあおられ、目には見えないが、脳は何らかの損傷を受けている。昔なら命を落とした爆弾攻撃でも、今の戦争では生き延びる。その結果、新たな傷病、この「見えない傷」が生まれている。
 イラクでは負傷兵の9割以上が命を取り留めるようになり、生き残る比率が高まった。
アメリカ兵は、戦場で1年に200回ほどのパトロールを行い、その過程で平均15回ほどの爆弾攻撃を受ける。そして、イラクとアフガニスタンで負傷したアメリカ兵は3万3千人ほど。そのうち4分の1、累計で2万人以上が軽度のTBIを発症した。アメリカ国防総省は、イラク・アフガニスタンでの戦争に従軍したアメリカ兵200万人のうち14万人が軽度のTBIと診断されたと発表した。
 これは莫大な治療費の負担増をアメリカ社会にもたらした。退役軍人省が2002年から2010年までに兵士の治療につかった費用は総額4700億円(60億ドル)で、2010年の1年間だけで1570億円(20億ドル)。
 路上に仕掛けられたIEDの攻撃から兵士を守るため、アメリカ軍は車体の底部が爆弾の衝撃を逃す特殊な構造の大型装甲車を開発した。2兆円近くの費用をかけて、イラクに1万台、アフガニスタンに2千台を配備した。ただ、重量が7~22トンとあまりに重く、機動性に欠けるため、地形の険しいアフガニスタンでは使えない地域が多い。
 アメリカ兵の自殺率は10万人あたり、20.2人に達している。
 戦場では、自分が「有益な人間」だと感じられるが、一般社会ではその経験は役に立たず、突然、「無益な人間」に成り下がったような感覚にとらわれる。そして、負傷して失業すると、さらに自信喪失が強くなり、家族との不和も増す。そのうえ、兵士は武器や痛みに慣れているから、一線を越えやすい。
 経済不振の続くアメリカでは、軍隊という就職口は、収入や医療保障、大学への進学補助などで大きな魅力だ。これって、日本でも同じようになってきましたね・・・。
帰還後の学費や医療費の補助を得るため、入隊する貧困家族の若者が少なくない。繰り返し戦場に行き、負傷し退役後は仕事を失う。離婚してホームレスになってしまうことも少なくない。
民間軍需会社、たとえばKBRはアメリカ軍と10年契約を結び、総額2兆7000億円を得る。イラクとアフガニスタンのアメリカ軍基地に働く民間軍需会社の民間人は計15万5千人。Kこれはアメリカ兵14万5千人を1万人も上回る。
同時に、オバマ政権は、無人航空機を活用する戦争のロボット化もすすめている。
 アメリカ政府は、イラク・アフガニスタン戦争のため仁総額307兆円(4兆ドル)を負担している。これには医療費、障害給付金をふくむ。そして、アメリカの累積債務は、2001年の5兆8千億ドルから、15兆5千億ドルにまで拡大した。
アメリカ兵と両国治安部隊の死者は3万人、戦闘による死者は25万人以上になっている。
テロ事件はなお続き、多くの市民が犠牲になっている。やはり、力ずくで抑えこもうとしても治安回復は難しいのです。武器さえあれば解決できるなんて単純な発想から一刻も早く脱却したいものです。
 それにしても、アメリカって野蛮な国ですよね。そんなアメリカの言うままにいつだって動かされている日本政府では困ります。日米安保条約のくびきから一刻も早く脱出したいものです。
(2012年9月刊。820円+税)

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