弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2020年12月22日

この国の「公共」はどこへゆく

社会


(霧山昴)
著者 寺脇 研、前川 喜平、吉原 毅 、 出版 花伝社

原発反対の声をあげたユニークな城南信用金庫の吉原毅理事長(当時)は、文科省の事務次官だった前川喜平氏と麻布学園の中学・高校の同級生。ともにラグビー部でがんばった仲だという。そして、寺脇氏は前川氏の3年先輩で、文科省の先輩・後輩の関係。
寺脇氏は、前川氏を入省当時から、いずれ文科省トップの事務次官になると見込んでいたという。
たしかに官僚の世界ではそれがあると思います。私の司法修習同期同クラスのO氏も司法修習生のときから、いずれ検事総長になると周囲からみられていました。本当にそのとおりになりました。頭が良いだけではダメで、腰の低さも必要です。柔軟に対応できる人がトップにのぼりつめます。もちろん、運も必要です。
市場にまかせておいたら何が起きるか...。お金持ちだけが安全地帯をつくって、そこに逃げ込む。その外側では、パンデミックで倒れる人がどんどん出てくる。新自由主義の行きつく先は、地獄の沙汰も金次第ということ。命もお金で買える。お金のない奴は死ねという話。だけどパンデミックは地球規模で広がっていくのだから、安全地帯にいるはずのお金持ちだって、いずれは生きていけなくなる。
人間の価値観の根っこの部分には、経験してきた学校生活、そのときの仲間や教員によってつくられている。なので、学校は、たとえ授業がなくても、子どもたちがたむろしているだけで学べることはある。
ふむふむ、これは私の経験に照らしてもそう言えます。私は市立の小学校と中学校、そして県立の普通(男女共学)高校の卒業ですが、それこそ種々雑多な庶民層の子どもたちと混じりあっていました。今は、それが良かったと本心から思っています。
超有名校である麻布学園では、親はエリート、金持ち層で、ほとんど似たような階層の子弟とのこと。それはそれで居心地がいいとは思いますが、異質な人々との出会いを経験できないというハンディもあるわけです。
安倍首相が2020年2月27日に全国一斉休校を要請した。法律上の根拠のない「要請」に全国の学校が応じてしまった。政治権力が無理やり学校を閉じた。
とにかく権力を握っている人の言うことを聞いていたらいい、聞かないとまずいことになる。そんな風潮が強まっているのが心配だ。本当に、私も心配です。
城南信用金庫は、年功序列を復活させた。抜擢(ばってき)人事はしない。一度や二度のミスでも厳しい降格人事はしない。なるほど、これも一つの考え方です。
前川氏は中学校で人権について話をしたとき、あえて自由を強調し、「きみたちは自由だ」と話した。自分で考えて行動するということは人に騙されないことでもある。大人の言うことを鵜呑みにしない。親や教師の言うことであっても、ただ、そのままには信じるな。なーるほど...、ですね。
「公共」とは何か、深くつっこんだ話が盛りだくさんで勉強になりました。出版社(花伝社)の平田勝社長より贈呈を受け、一気に読みあげました。ありがとうございます。
(2020年12月刊。1700円+税)

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