弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2020年11月20日

ウィルスの世紀

人間・生物


(霧山昴)
著者 山内 一也 、 出版 みすず書房

ウィルスと細菌を区別するのは難しい。細菌は、もっとも原始的な細胞であり、独立した生物。ウィルスは、細胞に寄生しなければ増殖できない。
細菌は二分裂で増殖する。ウィルスの増殖方法は細菌とはまったく異なる。ウィルスは、まず粒子の表面にあるウィルスのタンパク質(鍵)を細胞の受容体(鍵穴)に結合して、細胞の中に侵入する。細胞は、いわばウィルスの生産工場。
ウィルスは、工場の機能をハイジャックして、ウィルスの設計図(核酸)の情報にしたがってウィルスの部品(タンパク質)を生産させる。そして、細胞の中でそれらを組み立ててウィルス粒子をつくりあげ、細胞外に放出する。このように、部品を大量生産する方式で、二分裂と比べて非常に高い高率で子孫粒子を生産する。
ポリオウィルスは、試験管内で、1日で1個のウィルスから数万ないし数十万のウィルスが産生される。
ウィルスは、ほかの生物に依存すれば、生物界にしか見られない仕事ができる有機体である。したがって、ウィルスは生物でもなければ無生物でもないとみるほかない。
天然痘ウィルスや麻疹ウィルスは、人間集団の中でしか生存していけない。
ヒトのウィルスの多くは、困ったことにマウスでは増えない。
人類は気づかないまま、ながいあいだウィルスと共生してきた。
コウモリのだ液、尿、糞便、交尾によって、コウモリのあいだでウィルスは受け継がれている。フィリピンのニパウィルスは、感染源のオオコウモリから、ウマを介してヒトに移り、ヒト―ヒト感染が起きた。コウモリは、いわばウィルスの貯蔵庫になっている。ある調査では、コウモリから137種ものウィルスが見つかった。そのうち61種はヒトに感染できる。コウモリの平均寿命は20年ほど。
中国では、伝統的に野生動物を食べると健康に良いと信じられている。とくに外国産の動物は高価で、接待につかって自分のステータスを示す。また、漢方薬の原料としても、野生動物の需要は増加している。
ウィルスには抗生物質は効果がない。ウィルスは細胞の機能を乗っとって増殖するため、ウィルス治療薬は細胞に影響を与えずにウィルスの増殖を阻止するものでなければならない。
新型コロナウィルスのワクチンが簡単にできるとは思えません。トランプ大統領は、風邪みたいなものだと言って、軽視しましたが、とんでもない暴言です。アメリカでは1日に10万人もの感染者が出て、死者も多数でていますが、それは、国民皆保険ではないからだと思います。
日本もGO、TO、トラベルで人々が全国を駆けめぐっていますが、それによって感染者が爆発的に増えないか本当に心配です。ウィルスとは何かを知るうえで、とてもタイムリーな本だと思いました。
(2020年8月刊。2700円+税)

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