弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2020年1月24日

検察調書があかす警察の犯罪

司法


(霧山昴)
著者 警察見張番 、 出版  明石書店

県警本部警備部外事課の警部補が不倫相手の女性とともに覚せい剤を常用していて、シャブボケの幻覚によって警察官に発覚したのに、現行犯逮捕されることもなく、部下から知らされた県警本部長の指示によって事件がもみ消されようとしたという恐るべき事件の顛末が検面調書(検察官面前調書)によって明らかにされています。
事件が起きたのは今から20年前の1999年(平成11年)10月末のこと。神奈川県警を舞台としています。ことが発覚したあと、渡辺泉郎本部長ほか4人は起訴され、全員有罪(ただし、みな執行猶予)です。県警本部長のほかは、生活安全部(生安部)の部長、警務部の部長、その下の監察官室の室長と監察官の合計5人が起訴されたのでした。監察官という、本来、警察内部の不正をただすべき立場の人間までも、このような犯罪に加担していたわけですので、警察内部の体質を如実に示しているものとしか言いようがありません。
県警本部の庁舎に問題の警部補たちは深夜0時ころ押しかけてきて、意味不明な言動をしたことから、注射痕を見て覚せい剤使用を自認したというのです。それだったら、すぐに現行犯逮捕すべきところ、二人とも逮捕されず、女性は自宅に帰され、警部補のほうは県警本部内にとめおかれ、あとでホテルに連れ出されて覚せい剤が尿から検出されなくなるまで缶詰め状態(軟禁)にされました。
懲戒免職処分にしようとすると、解雇予告除外認定を申請する必要があり、そのとき覚せい剤使用を理由として明らかにせざるをえない。そこで、県警本部は組織ぐるみで論旨免職(依願退職の一つ)にしようとした。そのため、警部補の自宅マンションをガサ入れするときも、その前に、まずいものが出ないよう県警本部の警察官が先に入って処分することもした。
警部補をホテルに軟禁し、連日、尿検査をした。それは正式鑑定手続ではないので、採尿容器も正規のものは使えず、ネスカフェの空き瓶などを使用した。しかし、なかなか陰性反応に変わらなかった。陰性反応に変わったのは、1週間してからだった。
それまで、警部補にどんどん水を飲ませ、風呂に入って汗をかかせていた。
では、なぜ県警本部長はこのような隠蔽工作に走ったのか・・・。
現職警察官による覚せい剤使用事件が公になったときの警察組織に対するダメージの大きさを心配した、警察の威信が大きく失墜するのを恐れた、という。しかし、本当にそれだけだったのか・・・。渡辺本部長自身の経歴に傷がつき、その後の出世に響くということも大きかったのではないか。また、前任の小林元久・神奈川県警本部長は、警察庁警備局長に栄転していたうえ、内閣情報調査室長への栄転が決まったと新聞報道されていた。そこまで悪影響が及ぶ心配もあった。
要するに、警察の威信保持という名をかりて、実は自己保身を優先させていたというわけです。
また、外事課の高松課長補佐は、「せっかくだから記念撮影しよう」と呼びかけ、みんなで集合写真まで撮っています。まったく悪いことをしているという気がないというのにも驚かされます。
今年正月の恒例の人間ドッグのときに積んだ状態になっていたものを読了した本の一つです。読んでよかったです。今も、警察の体質は残念ながら変わらない、同じとしか思えません。
(2003年6月刊。2800円+税)

 大寒になっても雪がまだふりません。
 庭のあちこちに水仙の花が咲いています。およそは白い花ですが、いくつか黄水仙もあります。
 オーストラリアで火事が多発して、コアラが何万頭(匹?)も死んでいるとのこと。かわいそうです。でも、グレタさんの指摘を無視していると、温暖化のため人間だって地球に住めなくなるかもしれません。「戦争にそなえて軍備増強」より、こちらのほうがよほど差し迫っていると私は思うのですが・・・。

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