弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2020年1月23日

司法書士始末記

司法


(霧山昴)
著者 江藤 价泰 、 出版  日本評論社

弁護士と司法書士の協働は必要不可欠です。手続的にこまかいところは司法書士のほうが優れていますし、大局的観点での手続・解決だと紛争処理に慣れた弁護士のほうが一日の長がある気がします(もちろん、これはあくまで一般論でしかありません)。
この本はベテラン司法書士による事件処理にあたっての失敗談やら教訓が語られていて、大変参考になります。
司法書士制度は、1872年(明治5年)に司法職務定制が定められて以来、150年近い歴史を有している。1919年(大正8年)に司法代書人法が成立し、1935年(昭和10年)に司法書士法が制定され、戦後、何度も改正されて確立した。
司法書士会と弁護士会の違いは、なんといっても自治権が認められているかどうかです。弁護士会には監督官庁がありません。いえ、戦前は裁判所検事局の監督を受けていました。弁護士会の総会は検事正のご臨席の下で開かれていたのです。信じられませんよね・・・。
ところが、司法書士会は今も法務局の監督下にあります。ですから、司法書士会の総会では、法務局長が訓辞を述べ、局長表彰というものがあります。司法書士は日々の活動についても、さらには売上についても法務局に報告することになっていました(今も、でしょうか・・・)。
権力とたたかってでも社会正義と基本的人権を擁護するのが弁護士の責務です。弁護士がお金もうけだけしか考えないようになると、弁護士会の存在はうっとうしいだけです。会費はバカ高いし、何やかやとうるさいことを言って個々の弁護士をしばろうとする、そんな存在の弁護士会なんて必要ないという声が出てくるのは、ある意味で当然です。でも、ひとたび権力からにらまれたとき、それを支えてくれるのが弁護士会です。そのことにぜひ文句を言っている弁護士にも気がついてほしいと私は心から願っています。
この本では、本人確認が十分でなかったことから、危くニセ所有者に騙されそうになった体験談(失敗談)も紹介されています。これは本当に怖いことです。東京都心の一等地がサギ師集団によって売却され、超大手企業が何億円も損をしてしまった事件がありました。
このとき、新米の司法書士を狙い、ともかく事を急がせ、余裕をなくさせようとします。犯人は真の所有者の元同級生で、実印や印鑑証明書までもらっていたのでした。
運転免許証のコピーではなく、ホンモノを自分の目で見て確認するくらいの気構えがプロには求められる。まことに、もっともです。
「縄のび」という言葉があることを、弁護士になってまもなく知りました。法務局に備付けてある図面(本来は公図なのですが、実は不正確な字図=あざずであることがほとんど)と現地で実測した測量図が大きく違うというのは、決して珍しいことではありません。土地の実測面積が法務局の登記簿面積よりも大きいときは「縄延(の)び」と呼ぶ。ある程度の違いは許された誤差であり、「縄延び」は認められることになっています。しかし、逆のケースも、もちろんあるわけで、字図には大きな面積があるけれど、実は現地には何もないということもありうるのです。
ある司法書士は、先輩から「離婚と境界には手を出すな」と言われたそうです。どちらも金銭をめぐる紛争というより、感情的対立という側面が強いので大変なのです。
境界確認(確定)裁判は何年もかかることがしばしばです。それで、はじめにいただく着手金は、弁護士への慰謝料みたいなものですと私は高言し、決して安請負はしないようにしています。
今から20年も前に出た本で、長いあいだ積ん読状態になっていたので、人間ドッグ(一泊)のときに持ち込んで読了しました。改めて大変勉強になりました。
(1998年3月刊。2400円+税)

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