弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2020年1月13日

弁護士のしごと

司法


(霧山昴)
著者 永尾 広久 、 出版  しらぬひ新書

著者は25歳で弁護士になって今、71歳ですから、弁護士生活も46年間となりました。
これまで取り扱ってきた事件のうち印象に残ったものを少しずつ文章化していて、本書は読みもの編の第一弾です。
本書のトップは、勝共連合・統一協会による霊感商法でだまされた人のケースです。
主婦が32万円という高額なハンコを買わされ、600万円もの多宝塔を購入させられたのは、長男が短命で終わるとのご託宣によって心配させられ、それを回避するための行動でした。著者は洗脳の場になっているビデオセンターに乗り込み、パトカー2台が出動する騒動を起こしながらも、600万円全額を取り戻すことに成功したのでした。裁判所を待たずに弁護士も直接折衝することがあるというケースです。
二つ目のケースは、子どもの引き取りをめぐる争いです、裁判所の命令によって子どもを手放さなくてはいけない状況を打破するため不利を悟った相手方がテレビ局に駆け込んだ。ワイドショーのスタッフが東京から飛んできた。だまし打ちにあって田圃道でテレビ・カメラの皓々たるライトを浴びながら、世の中には理不尽なことも多いと実感させられた。それでも、なんとか人身保護命令の手続きのなかで、3歳の子どもを無事に取り戻すことができた。いやはやテレビ番組は怖いものです。
100万円の恐喝事件では、32回の公判を重ねて「被害者」の証言は信用できないとして、無罪判決が出て、そのまま確定した。ところが、被告人となった一人が民事で損害賠償を「被害者」に請求すると、裁判官は言語道断の請求だと決めつけて請求を棄却してしまった。
最後は、地場スーパーの倒産にともなう整理手続を裁判所の手を借りずに遂行した経緯が紹介されています。裁判所の破産手続を利用すると、手続費用(実は管財人費用)が高額なうえ、業者説明会がすぐにやれないとか、主導的に進行させられない。そこで任意清算手続で乗り切ったというケースです。
弁護士は何をしているのか、弁護士って役に立つものなのか、実例をふまえて、プライバシー保護に留意しつつ具体的に明らかにしている新書です。
いま、大学進学を希望する高校生のなかでは法学部より経済学部が人気であり、司法界の人気も低下しているといいます。とても残念なことです。地方にも人権課題はたくさんあり、それに取り組むのは人生を充実させるうえで、とてもいいことだと思います。この新書を読んで弁護士を志望する人が増えてくれることを願っています。
ですから大学生や高校生などに広く読まれてほしいものです。新書版200頁。
(2019年12月刊。500円(悪税こみ))

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