弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2019年8月27日

国家機密と良心

アメリカ


(霧山昴)
著者 ダニエル・エルズバーグ 、 出版  岩波ブックレット

ダニエル・エルズバーグというと、ペンタゴン・ペーパーズです。それはアメリカのベトナム侵略戦争の実態をアメリカ政府がひそかに調査してつくりあげた秘密報告書です。ペンタゴンとはアメリカの国防総省のことです。
1967年6月というと、私が東京で大学1年生としてまだまだ元気一杯、18歳のころです。
アメリカのマクナマラ国防長官は、ベトナム戦争には問題があるのではないかと疑って40人の調査チームをつくって調査研究させた。1年半後にできあがった報告書は47巻7000頁に及ぶ大部なものだった。
ベトナム戦争では、ベトナム人200万人が亡くなり、世界最強のはずのアメリカ軍も5万7千人という戦死者を出しました。韓国軍もベトナムへ出兵し、5千人近い戦死者を出しています。その見返りに韓国はアメリカから経済援助を受けました。日本は憲法9条のおかげで出兵を免れ、ベトナム特需でうるおいました。
ペンタゴン・ペーパーズは、要するに、アメリカのベトナムにおける戦争に大義はなく、敗戦必至ということを明らかにしたものです。ですから、ジョンソン大統領のひきいるアメリカ政府は公表できませんでした。それを、逮捕・失職そして投獄を覚悟してエルズバーグはマスコミに資料を渡して公表したのです。映画にもなりましたが、アメリカのマスコミも骨がある人たちがいたのです。
エルズバーグは、もともと誰もが知る反共主義者でした。マクナマラ国防長官の顧問に就任し、ソ連・中国を対象とする核戦争についての公式ガイダンスを立案していました。核戦争になれば、ソ連と中国だけで3億2500万人が死亡し、全世界で6億人が死亡するという計画。そして、この予想には、ソ連軍が反撃したときの死傷者数は入っていない。すなわち、核戦争は、地球に人類が住めなくなるという結果につながるのです。
日本には、岩国の沖合にアメリカの艦船が停泊していたが、それに核兵器が搭載されていた。そして、沖縄の嘉手納には核兵器が貯蔵されていて、有事の際には、日本本土の基地へ核を移送する計画をもっていた。
核戦争をひき起こしてはならない。日本の憲法9条は大きな意義をもっていると考える著者は核兵器のもたらす害悪を国民がみな等しく認識し、その根源を踏まえて運動をすすめようと呼びかけています。まったく同感です。
(2019年4月刊。740円+税)

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー