弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2019年8月21日

日本人の明治観をただす

日本史(明治)


(霧山昴)
著者 中塚 明 、 出版  高文研

少なくない現代日本人は、朝鮮半島で日本(軍と政府)がひどいことをしていたことをきちんと認識していないと思います。その原因の一つが、日本がやったこと(事実)が正しく知らされていないことです。たとえば、朝鮮半島への日本(軍)の侵略(武力攻撃)の第一歩となった江華島事件です。1875年(明治8年)9月に起きました。日本の軍艦「雲揚」が永宋島(いま仁川空港があるところ)にある砲台と戦闘して占領し、破壊して大砲を奪ったという事件です。
日本軍のほうから砲台を攻撃して始まったにもかかわらず、日本政府の公式発表では、日本は飲料水を求めていただけなのに、朝鮮側が不法にも攻撃してきたので、やむなく反撃したと書き換えたのです。
日本は、明治8年の段階で、既に朝鮮半島を支配する野望をもっていたのでした。ところが、日本政府の公式発表は、「国際法もわきまえない遅れた朝鮮」だと決めつけ、ことさら「朝鮮の後進性」を強調することで、日本の侵略の事実をおおい隠そうとしたのです。
これって、まるで現代日本の徴用工問題でとっている安倍政権のやり方そのものではありませんか・・・。
明治の日本政府が発行した1円以上の紙幣には神功皇后の像が印刷された。「三韓征代」の立役者を紙幣にのせた意味は大きい。大和政権つまり日本は、あたかも古くから挑戦を征服・支配していたかのような話は、この神功皇后が立役者として必ず登場してくる。
日清戦争は1894年(明治27年)7月25日、朝鮮仁川の沖合で日・清領海軍の衝突から始まったとされている。しかし、実は、日本軍が最初に軍事行動を起こし第一弾を発砲したのは7月23日早朝、ソウルの朝鮮王宮に向かってのことだった。ソウルの景福宮を占領し、朝鮮国王を事実上とりこにしたのだった。この日本軍による王宮占領の真相が明らかにされないよう、またしても日本政府は事実を改ざんした。
日本軍は朝鮮王宮を占領し、国王を事実上とりこにし、国王の実父である大院君をひっぱり出して政権の座につけた。しかし、大院君は、日本の意図に強く抵抗したのです。
日本軍は、朝鮮王宮を占領する前に、清国に通じる電線を切断していた。王宮占領の事実が清国に伝わらないようにするためだ。
このようにして、日本人の大多数は、少し前の私のように、明治以降の日本が朝鮮・勧告で何をしたのかについて無知なだけでなく、朝鮮半島における古代からの歴史を何も知らず、しかし偏見だけは根強くもっているという状況が生まれた。
いま私たちは神功皇后の「神話」を乗りこえなければいけないのです。勇気をもって、目を大きく見開き、そして、日本が世界のなかで信頼される存在たりうるよう小さな努力を積み重ねていきましょう。
この本で卒寿となった著者は、そのことを強く呼びかけています。
(2019年5月刊。2200円+税)

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