弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2019年5月25日

助監督は見た!実録「山田組」の人びと

人間


(霧山昴)
著者 鈴木 敏夫 、 出版  言視舎

今秋に公開予定の『男はつらいよ』を私は今から楽しみにしています。
映画『男はつらいよ』は私が東京で大学3年生のときに始まり、年に2回、はじめは一人で、やがて家族とともに正月の楽しみとしてみていました。ですから、山田洋次監督は私のもっとも敬愛する映画監督です。その「山田組」の実態が実況中継のように描かれた興味深い本です。
山田監督って、他人(ひと)を笑わせることには長(た)けているわけですが、自身は人前ではあまり笑わない人のようです。そして、あからさまにほめることもしないとのこと。意外でした。ですから、助監督は撮影現場の雰囲気をなごませるのも大きな仕事の一つなのです。
撮影現場で、俳優たちの表情が硬く、緊張している、その要因は山田監督の仏頂面。
愛想良くしなくてもいいけど、せめて不機嫌そうな顔をやめてほしい・・・。
山田監督はテレビドラマは見ない。映画はよくみているようですが・・・。
「はい」「はい」と返事をしすぎる俳優は、まずダメ。言われたことを理解していない。その場を逃れようとしているだけのこと。
山田監督は、「東京家族」の撮影のとき、林家正蔵さんに「顔で芝居しようとしないで!」と、よく叱責した。
ええっ、落語家って顔で芝居するものではないのか・・・。
子役に対する演技指導のポイントは三つ。その一は、相手に分かる言葉で話すこと。その二は、ほめること。「さっきより良いよ」、「すごいね、できちゃうんだね」。その三は、空いている時間は、寄り添って相手をする。山田監督は、この三つとも苦手だ。山田監督は、子役の俳優にこういう芝居をしろと命じるだけで、具体的に指導しているのは助監督たち。子どもはほめるに限る。ほめれば、やる気が出てくる。
山田監督は、「面と向かってほめるなんて、照れ臭いじゃないの」という。
山田監督は、緊張をときほぐす技をもちあわせていない。むしろ、どんどん追い込んでいく。山田監督は、俳優への注文が多い。
山田ジョークは相手に伝わらないことがある。
俳優は、一般の人が経験しないことも対処しなくてはいけない。それが嫌なら、できないのなら、俳優なんかにならないことだ。
山田組の撮影現場は、いつもピリピリした緊張感に包まれている。俳優への要求も多く、ときには激怒し、容赦なく罵声を浴びせることも・・・。うひゃあ、そ、そうだったんですか・・・。そんなフンイキのなかでつくられた映画なので、腹の底から、何のわだかまりもなく笑えるのでしょうか・・・。
山田監督はあきらめが悪い。カット割りが決まるまで、悩みに悩みぬく。芝居のテストを何度も何度も繰り返す。ロケ撮影になると怒鳴りまくる。残業が多くなる。
そんな山田監督のつくった映画の出来はよい。
助監督として著者が復帰して、山田監督が怒鳴る回数が減ったそうです。
早く『男はつらいよ』で、渥美清を久しぶりにアップで見たいです。
(2019年3月刊。1600円+税)

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー