弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2019年5月24日

少年たちの戦争

日本史(戦前)

(霧山昴)
著者 徳永 徹 、 出版  岩波書店

太平洋戦争の敗戦当時に高校生(17歳から18歳)だった著者と、その仲間たちの書簡が紹介されている貴重な記録集となっています。
軍国主義教育まっさかりのなかで著者たちは陸軍士官学校や海軍兵学校を希望しますが、教員が海兵への志望書を破棄します。
「将来、科学技術の面で、国に奉公するように」と教員が生徒を諭すのです。立派です。
著者の父親も、「こんなに世界中の人が殺しあっている時代だから、逆に人の命を助ける仕事もよいではないか」と医科への進学を勧めたのでした。偉い父親です。
日本軍が真珠湾を攻撃し、戦争を始めた時点で、すでにドイツ軍は敗退をはじめていました。そして、1945年1月にはソ連のスターリン首相がついにベルリン攻略を宣言。このとき、著者は、「ドイツ、がんばれ」と心念じたのでした。
このころ病気療養中の著者は吉野源三郎の『君たちはどう生きるか』を読んでいます。昨今の日本でベストセラーになった、あの本です。いま読んでもすばらしい内容の本ですが、戦争末期の敗戦間近なころに読んだときの率直な感想を知りたいものです。
1945年4月3日の日記に次のように書きました。
「死の足音は刻々に近づいている。しかしオレは不注意にも、否、故意にその足音を聞こうとはしない。臆病者!」
まだ17歳の身で、死が間近に迫っているという実感は切ないものがあります。
4月14日の日記には「ソ連赤軍がベルリンに突入したらしい」と書かれています。いよいよ敗戦必至です。
5月10日の日記。
「もしも敵の空挺部隊が阿蘇の外輪山の中の平地に降下した場合、五高生も出動するという。無条件降伏は、断じて取るわけにはゆかぬ。日本人たる以上、国体が破壊されるのをどうして座視することができよう。ならば即ち、忠良なる日本人の大部分は敵の物量の前に玉砕するだけである」
長崎医専に1番で合格し、戦争中なので、長崎の工場で働いていた級友は原爆死してしまったのでした。本当に残念です。
それにしても、小学校の担任だった田中先生はいい仕事をされましたね。おかげで、戦死してしまった級友のことをふくめて、こんな立派な記録集ができあがりました。
戦争はダメ。軍備を増強したら戦争が近づき、平和は遠のくばかりです。安倍首相の言いなりになっていると、そんな戦前のあやまちを繰り返すことになります。
(2015年2月刊。1800円+税)

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