弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2019年2月20日

一路

司法

(霧山昴)
著者 環 直彌 、 出版  日本評論社

裁判官懇話会の呼びかけ人の一人として私も名前だけは知っていましたが、なんと特捜部検事だったこともあるのですね。驚きました。検事、判事、そして弁護士と渡り歩いていますが、そこには一本の太い筋が通っています。
戦前の思想検事がエリートだったこと、裁判官は検事に逆らえず、検事の言いなりだったことを改めて認識しました。
一高を出て、優秀な人間を選んで思想検事にしていた。裁判官は、検事さんがおっしゃるんだから間違いないと、確かめもしなかった。
敗戦で思想検事がやめた(パージになった)だけで、他は何も変わらなかった。裁判官も検事も、公職追放以外は、まったく手がつかず、そのままだった。
戦後、弁護士になってチャタレイ事件の弁護人になります。百里基地訴訟で地主側の代理人にもなりました。そして、そのあと再び裁判官になったのです。それにしても11年間の弁護士生活のなかで12件もの無罪判決をとったというのですから、えらいものです。
東京地裁の裁判官のとき、戸別訪問禁止違反で起訴された被告人について無罪判決を出しています。公選法は違憲だから無罪だというのではありません。本件では有罪するまでの必要性もなく無罪、という判決でした。
宮本康昭裁判官の再任拒否があったとき、それを公然と批判し、裁判官懇話会の呼びかけ人になりました。懇話会の第1回は昭和46年(1971年)10月です。ちょうど私が司法試験の口述試験を受け終わった直後です。
定年退官したあと、再び弁護士になり、横浜事件の再審事件に関わります。
権威に弱い、批判精神に乏しく、安直に能率的な裁判官が増える傾向にあるとすれば、由々しい問題だ。
裁判官は、学者ほど頭が良い必要はない。良心こそ大切なのだ。頭の良い人は、相反するどちらの見解を正当らしくみせかける能力がある。もし、その人に裁判官の良心に欠けるものがあると、もっとも危険な存在になる。
まさしくそのとおりだと思います。
福岡で長く裁判官をしていて、現在は弁護士である西理氏が弟子の一人であることを初めて知りました。今、裁判所の内部にいる人にぜひ読んで欲しいと思った本でした。
(2019年1月刊。1400円+税)

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