弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2019年2月 5日

AIと教科書が読めない子どもたち

人間

(霧山昴)
著者 新井 紀子 、 出版  東洋経済新報社

一橋大学法学部を卒業したあと、アメリカのイリノイ大学で数学科を学んだ数学者という著者の経歴は、私には驚きです。というのも、私は高校では理系クラスにいたのですが数学の才能がないことを自覚して、法学部に志願を切り替えたからです。
そして、著者は、「東ロボくん」と名付けた人工知能(AI)を我が子のように育て、東大合格を目ざしてチャレンジしてきた。そして、この「東ロボくん」は、東大には合格できないが、MARCHレベルの有名私立だったら合格できるほどの偏差値に達している。
AIはコンピューターであり、コンピューターは計算機であり、計算機は計算しかできない。
なので、ロボットが人間の仕事をすべて引き受けてくれたり、人工知能が意思をもち、自己生存のために人類を攻撃したりするという考えは、まったく妄想にすぎない。
つまり、AIが人間にとって代わるころはありえない。
コンピューターができるのは、基本的に四則演算だけ。
「東ロボくん」につかった予算は、年間3000万円。このチームはのべ100人以上の研究者が参加した。半分が大学、残る半分は企業からの参加者。
AIがすすむと、かなりの職業がなくなってしまう。たとえば、電話販売員(テレマーケター)、保険業者、融資担当者、銀行の窓口係、スポーツの審判員。
アメリカの職業702種について、その半分が消滅し、全雇用者の47%が失職する恐れがある。
大学入試では、ビッグデータは集めようがない。
ツイッターは、脅迫などの不適切ツイートや残酷画像やアダルト画像などの不適切画像の削除に常に追われている。適切と不適切をAIが自動判定できるか否かが、ツイッターの存続そのものを左右する。
国語と英語の二つは、「東ロボくん」の数式処理では克服できない。行く手を阻んだのは「常識」の壁だった。
AIには、意味を理解できる仕組みが入っているわけではなく、あくまでも「意味を理解しているようなふり」をしている。
AIが計算機であることは、AIには計算できないこと、基本的には、足し算と掛け算の式に翻訳できないことを意味している。
AIはロマンではない。
日本の中学生・高校生の多くは、中学校の歴史や理科の教科書程度の文章を正確に理解できない。これは、とても深刻な事態だ。日本の中高校生の読解力は危機的と言ってよい。その多くは、中学校の教科書の記述を正確に読みとれない。大学教員の多くが、学生の学力の質の低下を肌で感じている。学生との会話が成立しないことがあまりに多いし、増えている。
就学援助の率が高い学校ほど読解能力値の平均が低い。貧困は、読解能力値にマイナスの影響を与えている。
ある中学校では、社会科の教科書の音読を授業中にさせている。文章を正確に、しかも集中してすらすらと読めなければ、スタート地点に立つことさえできない。
東大に入れる読解力が12歳の段階で身につけていると、東大に入れる可能性は圧倒的に高い。
なるほど、そうですよね。日本文の問題を素早く理解することが解決の第一歩です。
なるほど、なるほどと思いながら読みすすめていきました。
(2018年12月刊。1500円+税)

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