弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2018年9月28日

ナガサキの郵便配達

日本史

(霧山昴)
著者 ピーター・タウンゼント 、 出版  スーパーエディション

長崎で16歳のとき、郵便配達の仕事をしていて被曝した谷口稜曄(すみてる)さんの半生をイギリス人作家が描いたノンフィクションです。残念なことに、谷口さんは、この本の完成を待たずに、2017年8月30日、88歳でなくなりました。
その瞬間、子どもたちも他のあらゆるものも、巨大な青白い眼の眩(くら)むような閃光(せんこう)と、耳をつんざく、この世のものとは思われない轟音(ごうおん)のなかで、かき消されてしまった。のちに生存者たちは、これをピカドン(閃光と轟音)と言った。それから、すべては塵と暗闇になり、台風よりも激しい風がスミテルを自転車から落とし、何メートルか先の地面へ吹き払った。
このとき、原子爆弾を落したボックス・カーのなかでは、乗組員たちが成功をおさめたことを喜びあっていた。
「おい、おまえ、1発で10万人のジャップを殺したぞ」
その中には、スミテルに手を振ったばかりの白いシャツの子どもたちもいた。
それは、家族全員、学童と教師たち、病人と看護していた人々、子どもたちの世話をする仕事をしていた人々、買い物をしていた家族、庭の花壇や焼き物の小屋の世話をしていた人、小さな子どもたちも含めた大虐殺だった。
これらすべての人々と一緒に、長崎の美しい花や森、それに歴史が破壊された。
たった1機の飛行機、たった一つの爆弾が、これらすべてを抹殺してしまった。
原子爆弾が殺害した数万の人々のなかで、帝国陸軍の制服を着ていた軍人は、わずか150人に過ぎなかった。
なぜアメリカは、軍人ではなく、民間人を攻撃・殺害したのか・・・。この疑問は、今なお、きちんと解明されてはいません。
スミテルさんは、戦後、紹介されて若い女性と結婚します。でも、背中を見せてはいません。新婚初日、スミテルさんは風呂場で初めて、背中を新妻に見せるのです。
最初の反応は、生理的な衝撃と反発だった。次に、心の傷を感じた。騙されて、こんな手負いの男と結婚させられたのだ。しかし、その次に、同情の気持ちに満たされた。そして、すぐに考えを切り換えた。
スミテルは親切で、善良だ。彼は私の夫で、私を必要としているのだ。みんなが、スミテルさんを助けられるのは私だけと言っていた。私はスミテルさんに寄り添っていこう。
「さあ、スミテルさん、あなたの背中を洗わせて」
原爆症、正しくは放射線病は遺伝子に悪影響を与えますよね。結婚はその心配をかきたてます。幸いにもスミテルさんは88歳まで生きて、原爆の恐ろしさを世界中に訴えてまわりました。本当に頭が下がります。
この本は日本で初めて全訳で刊行されました。北九州の清原雅彦弁護士より贈呈いただいた本です。ありがとうございました。
(2018年8月刊。809円+税)

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