弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2018年3月22日

北朝鮮人民の生活

朝鮮


(霧山昴)
著者 伊藤 亜人 、 出版  弘文堂

北朝鮮の民衆の実情を知ることのできる貴重な文献です。脱北者の99編の手記を紹介しながら、詳しく生活全般を解明しています。画期的な本だと思いました。
北朝鮮から脱北してきた人々(脱北者)が、自身の経験を丹念に書きつづった手記を著者が分類し、解説していますので多面的で分かりやすい本になっています。生々しく北朝鮮の社会の断面を伝えてくれます。
北朝鮮社会では、1970年代から農業をはじめとして生産停滞が認められ、1980年代に入ると社会主義の基本ともいえる食糧配給が滞りはじめた。1990年代に入ると、ソ連の体制崩壊をきっかけとして経済危機一挙に現実化し、その後半には「苦難の行軍」と呼ばれるはどの状況となり、国民の10%に達する大量の餓死者を出した。
北朝鮮経済は統計的資料が公表されていない。これだけでも東西ドイツの統合前の格差と比べものにならないほど深刻な経済格差があることは明らかである。
ただ、北朝鮮社会は、常に危機と隣りあわせにあり、人々は食糧不足や配給停止という危機的な状況のなかで生活してきた。危機とは北朝鮮社会に織り込まれた常態と言ってよく、国民に厳しい生活を強いて体制を維持するうえでも、危機感を高揚することは欠かせなかった。
脱北者は、すでに韓国内に3万人をこえ、日本に入国した人も200人はいる。脱北者のなかには韓国での生活への適応に苦労している人もいて、それが北朝鮮にも伝わっていて、どうせなら日本に行ったほうが楽だという考えも広まっているようだ。
北朝鮮には、三大階層という分類がある。核心階層は統治階層で全人口の30%を占める。次に動揺階層は50%を占め、三つ目の敵対階層は20%とされている。
大学に進学するにしても、幹部子女には無試験の特別入学が許可される。
金日成が平壌は国の顔だと強調したことから、障害者のいる家族は平壌には住めず、地方へ追放された。
北朝鮮では、人間にも機関(組織)にも、物品にまで等級をつける。
大学教授は、1級から6級まで。労働者は1級から8級まで。
朝鮮労働党の党員は1990年代で300万人以上、人口の15%を占める。
北朝鮮では、人民班長を冷遇しては無難に生活することができないほど、人民班長は人々の生活に密接な存在だ。人民班長に覚えが良くなければならない。そうでないと、多くの不利益を受けることになる。人民班長に難点があっても、何とか良い関係を維持しようと努力する。一挙一動、あることないことまで、報告され制裁されることになるので、人間関係は十分に気をつけ、うまく保っていく必要がある。
北朝鮮で生きようとすれば、他の人を押し倒してでも無条件に幹部にならなければならない。幹部をしてこそ、食べ物も先に食べて、勲章も先にもらう。
支配階級は、温水施設と水洗便所のある単独住宅や高級アパートに住む。ところが、もっとも条件のよい平壌でも、朝・昼・夕に各1~2時間ずつ、1日に3~6時間しか水道の水が出ない。地方では、日に1~2時間しか水が出ないので、食用水や手洗のために水ガメに貯めておく。大部分の家に浴室はないので、手拭いを水に浸して簡単に身体を拭く。
「苦難の行軍」と呼ばれた1990年代後半には、市場が急速に膨脹した。このとき、女性は党の指導に耳を貸さず、生活の活路を市場に見いだした。
日本統治下のタノモシが、今も北朝鮮では通用している。韓国の「契」に相当するもので、日本の統治する前から風習としてあった。
北朝鮮では、学校に入ると、盗むことからまず学ぶ。盗みのなかでも、軍隊にするものは、もっとも組織的かつ強引。被害者は泣き寝入りするほかない。兵士だって、食料が優先的に供給されるとはいうものの、飢えているから、食料盗は頻発している。
450頁あまりのすごい本で、圧倒されてしまいました。
(2017年5月刊。5000円+税)

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