弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2018年2月20日

日本軍兵士

日本史


著者  吉田 裕 、 出版  中公新書

 日本軍兵士の多くは戦場で病死・餓死してしまいました。なぜ、病死がそれほど多かったのが、本書を読んで理由が納得できました。要するに栄養失調から抵抗力を失っていたので、病気にかかると治ることができなかったのです。これは、日本軍が上層部は栄養あるものを食べていても、末端兵士の食糧確保を真剣に考えることがなかったという日本軍の体質から来ている本質的な弱点です。
 中国大陸で、日本軍は「高度分散配置」態勢をとっていた。歩兵1個大隊(800人)で、2500平方キロの地域を警備していた。「高度分散配置」の下で戦争が長期化していったことから、兵士たちの戦意は低下する一方だった。ある連隊は、一つの作戦のあいだに38人の自殺者を出した。
日本軍の戦地医療のなかで、歯科治療はもっとも遅れていた。戦場では、歯磨きする余裕がなかったので、虫歯をもつ将兵が増大した。軍隊の兵士の7~8割に虫歯や歯槽膿漏があった。
 アジア・太平洋戦争の犠牲者は、アメリカ軍が10万人以下、ソ連軍は2万人強、イギリス軍は3万人、オランダ軍が2万8千人。これに対して、日本軍は230万人。その大部分はサイパン島陥落後と思われるが、日本政府は年次別の戦没者数を公表していない。アメリカは年次別どころが、月別年別の戦死者数まで公表している。
 日本軍の戦没者のうち、餓死者は1400万人、全体の61%に達する。これほど多くの餓死者を出した原因は、日本軍が制海、制空権を喪失したことにより、日本軍の補経路が寸断されて、深刻な食糧不足が発生したから。昭和天皇も、この実情は認識していて、「将兵を飢餓に陥らしむるが如きことは、自分としてもとうてい耐えられない。補給につき、遺憾なからしむる如く命ずべし」と悟っていた。
北ビルマの戦線では、キニーネも効かないマラリアが普及した。それは、日本軍の兵士たちの栄養が低下していたため、栄養失調者のマラリアは治らないということだった。
戦線で長期にわたって食糧不足と身心の過労のため、高度の栄養障害を起こしていた。これを戦争栄養失調症と呼んでいた。そのような兵士は、体内の調節機能が変調をきたし、食欲機能が失われて、摂食障害を起こしていた。兵士たちは拒食症になっていた。食べたものを吐き、さらに下してしまう。壮健で、なければならない戦場で、身体が生きることを拒否していた。
 なるほど、そういうことだったのですね、やっと事情がのみこめました。
硫黄島の日本軍守備隊の死者は、敵弾で戦死したのは3割。残る7割のうち、その6割は自殺、1割は事故死、1割は他殺(捕虜になるのは許さない)。
酒癖が悪く、料亭を遊び歩くような不品行の将隊ほど、批判を恐れて兵士に慰安所に行くことをすすめ、さらには強姦をけしかける傾向があった。
 このような野蛮な体質をもつ帝国軍の依続を今の自衛隊の幹部のなかにはありがたく継承しようという者が少なくないようで残念です。
 広く読まれるべき新書だと思いました。ぜひ、あなたもお読みください。
(2017年12月刊。820円+税)

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