弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2017年12月27日

空洞化と属国家

社会


(霧山昴)
著者 坂本 雅子 、 出版  新日本出版社

いまの日本社会に少しでも疑問を感じている人には必読の本だと思いました。なにしろ776頁もの大著ですし、5600円(税別)もしますので、誰でも気軽に読める本ではありません。そのことを承知のうえで、それでも一人でも多くの人に読んでほしい本だと思いました。
一基1000億円もする地上型イージス装備を2基もアメリカから購入するというのに、それが日本国民を守るのに何の役にも立たないばかりか、有害でしかないことを承知していながら、今のマスコミはまったく批判もしません。北朝鮮の「ミサイル攻撃の恐怖」というアベ政権の世論操作に乗っているだけです。そのため、生活保護をはじめ福祉・教育予算は削られる一方です。今のアベ政権は「国を守る」ことに熱心ではあっても、日本国民の生活を守ることには知らん顔。そして、日本国民の半分は、投票所にも足を運ばず、アベ政権まかせで日々を考えずに過ごしています。本当に、そんなことでいいのでしょうか・・・。
いま、テレビでは、日本の技術力の素晴らしさを強調し、日本の伝統の深さ、豊かさ、日本人のすぐれた感性といった、「日本の優位性」を強調する番組が増えている。しかし、日本経済は長期に停滞している。現実には、日本は、生産面でも輸出面でも、中国をはじめとするアジア諸国に劣後し、後退してしまっている。
神戸製鋼所、日産、日立、東芝、日本を代表する超大企業が長く不正行為をしてきたことが最近になって次々に明るみに出ました。大手ゼネコンのリニア新幹線の談合事件も本質的に同じことです。品質本位、お客様第一をモットーとして伸びてきたはずの日本の大企業が、品質ごまかし、金もうけ本位で、客は二の次、安全性は無視、金もうけのためには兵器産業優先という醜い本質を日本経団連は率先しているのです。本当に残念です。
東芝やシャープを先頭として、日本の電機産業は、日本から消滅してしまう危機にある。日本の自動車産業にしても、電機産業と同じ道をたどろうとしている。すべてはアメリカの巨大企業の言うなりに日本の政治が動いていること、それを日本の政官財界が受け入れていることによる。
今の日本は、世界の中で「ひとり負け」の様相を呈している。日本が大きく経済成長したのは1990年代に入るまでで、この20年ほどのあいだに、日本のGDPは40兆円から50兆円も減少している。
日本の企業は、この20年間に、日本国民の雇用を海外、とくにアジア人に置き換えてきた。
日本の貿易収支は、かつては黒字が続いていたが、2011年以降は赤字になっていて、2014年には、10兆円をこえる巨額の赤字となった。今や日本は貿易赤字大国だ。
日本の輸入品は、原油などの鉱物性燃料と電気機器が最大項目。これは海外進出した日系工場からの逆輸入品や、アジア企業への生産委託品が多い。
日銀がいくら市中銀行に紙幣を振り込んでも、その資金は金融機関から先の法人や個人に流れていかなかった。大企業には金が余っていて、銀行からお金を借りている必要がなくなっている。
日本の製造業全体の設備投資が、ものすごい勢いで国外に流れ出している、恐ろしい現象が続いている。
日本の自動車メーカーによる中国工場からの対日自動車輸出が本格化すれば、そのときこそ、とてつもない産業空洞化が日本を襲うことになる。
半導体は、重機産業、そして日本のものづくり全体を支えてきた分野だった。しかし。1990年代から、日本企業は半導体生産から次々に撤退しはじめた。DRAM生産で日本企業に代わって圧勝したのは韓国企業だった。日本企業が韓国の半導体企業を「育成」した。2010年以降、日本企業の半導体生産は崩壊した。
ノートブックパソコンの世界生産に占める日本国内の生産は世界の4分の1から、今では0.2%になった。日本企業は液晶テレビでも液晶パネルでも敗北してしまった。日本の重機産業は、ものづくりでの全面敗退となった。
日本が海外の水道事業を運営しようとすると、他国の水道事業に日本の公的資金を投入するという理不尽なことをしなければならなくなる。水道事業は、まともに運営したらもうけることなど、そもそも不可能。
日本経団連の役員企業の3分の1が外資によって占められていて、外国の資産管理信託会社や日本の代理会社が大株主を占めている。だから、日本の財界が日本国民の生活を守ろうとしないのも必然なのですね。日本の産業構造の破綻というか、日本国民のためにならない政策がますます進行していく必然性を見事に解き明かした貴重な本です。著者に対しては、この本文776頁を国民一般に向けて100頁以下のブックレットにまとめることを強くお願いしたいと思います。
                           (2017年9月刊。5600円+税)

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