弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2017年12月26日

軍国少年がなぜコミュニストになったのか

人間


(霧山昴)
著者  松本 善明 、 出版  かもがわ出版

 いわさきちひろの夫であり、弁護士であり、日本共産党の国会議員として活躍した著者の自伝です。
著者は、1945年8月15日、19歳で海軍兵学校の最上級生として広島県江田島にいた。なぜ、あの戦争に反対しなかったのか・・・、その問いに答えるべく書いた自伝。
戦争に反対するどころか、当時の著者は心の底から日本の戦争を正しい戦争だと思い、お国のために命を投げすてることを唯一の道だと考えていた。それは愚かだったから戦争を賛美したというものではなかった。
 小学生時代の著者は身体が弱く、神経過敏だった。親は子どもたちに読書をすすめた。東郷平八郎、乃木希典などの軍人の生涯にひきつけられ、軍人として国のために命を捧げるという生き方に違和感をもたずに育った。
 著者は両親の期待を受けてまじめな秀才としての道を歩んだ。お国のために死んでいく価値観は、小学校のときから疑いをもっていなかったが、中学時代にますます確固たるものに変わった。
 中学の校長は、「10年後の大学者となるより、1年後の一兵卒たれ」と叫んだ。著者は、自らの燃えるような意思で、海軍兵学校への進学を決めた。
 このように読んでいくと、学校教育の影響力の恐ろしさをまざまざと見せつけられます。アベ首相につらなる人たちが教育勅語の復活を企図しているのが、恐ろしくてなりません。
 著者は1943年12月に江田島の海軍兵学校に入ります。75期生です。3480人が同期生でした。これは74期の3倍以上。
 敗戦によって生きる目的を失い、心にぽっかり穴があいてしまった。そして1946年4月、東大法学部に入学した。大学生になって、戦前戦中に命を賭けて戦争に反対し続けた人たちがいることを知り、ひどい衝撃を受けた。東大図書館に一人こもり続けるのを1年数ヶ月間も続けたあと、著者は日本共産党に入ったのです。信じられませんね。図書館での独習だけで共産党に入るなんて・・・。
 アベ首相の父の安倍晋太郎とは法学部の同期生で、卒業も同じだった(お互い面識はない)。
 いわさきちひろとの出会いは感動的です。交際中のある日、ちひろから「靴を買ってあげましょうか」と言われた。著者がわらの緒のついた粗末なわら草履(ぞうり)をはいていたから。しかし、著者は海軍兵学校からもらってきた靴が6足もあるから大丈夫だと答えた。自分は一生お金が入るような仕事にはつかないつもりだから、6足の靴を一生はこうと思って大切にしていると答えた。何と純粋な心の持ち主でしょうか・・・。
 著者とちひろとの二人だけの結婚式の光景を上条恒彦が歌っています。神田のブリキ屋の二階のちひろの部屋を花でいっぱいにした。1000円の大金を全部花にした。あとはワイン1本ときれいなワイングラス二つ。すばらしいですね・・・。そのあと、著者は失業して司法試験を受験し、半年間の猛勉強で合格したのです。6期です。
 国会議員になってから、田中角栄首相を鋭く追及し、総理を辞めたくなるほどの心境に追いやったのです。後輩として、読んで元気の出る本でした。
(2014年5月刊。1800円+税)

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