弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2017年7月22日

足利尊氏

日本史(室町)

(霧山昴)
著者 森 茂暁 、 出版 角川選書

足利尊氏の実相に迫った本として、興味深く読みとおしました。なにより後醍醐(ごだいご)天皇との関係については目新しい説であり、なるほどと驚嘆してしまいました。
そして、足利尊氏は聖なる天皇に反抗した「逆賊」なのかという点の考察にも感嘆するほかありませんでした。足利尊氏逆賊説は、狂信的な南朝正統論の落とし子だった。
足利尊氏は後醍醐に対して、最後まで報謝と追幕の念を抱いていた。
足利尊氏と後醍醐とは、政治的また軍事的に対立する立場に立ったことは事実だが、かといって尊氏が後醍醐を追討や誅伐(ちゅうばつ)の対象とした事実は史料的に裏付けられてはいない。
足利尊氏は後醍醐に対して明確な謀叛(むほん)を企んだとはいえないので、尊氏に「逆賊」というレッテルを貼るのは、歴史事実のうえからみて、御門違い(おかどちがい)と言わなければならない。
足利尊氏は歴史的人物であるが、その評価は、英雄と逆賊の間をゆれ動いた。これほど、評価の振幅の大きい人物は、日本史においては珍しい。
後醍醐天皇の主宰する建武政権の存続期間は、2年半ほど。
御教書(みぎょうしょ)は、どちらかというと、私的性格をもつ文書。下文(くだしぶみ)は所領をあてがう公的文書。
尊氏の尊は、後醍醐天皇の偏諱(へんき)の尊をもらって「高氏」を「尊氏」としたもの。尊氏は、20ヶ国にわたる45ヶ所の北条氏旧領を天皇から獲得した。
恩賞納付のための文書の様式として、鎌倉将軍にならって袖判下文(そではんくだしふみ)を初め発給した。
歴史上に有名な人物を見直すことができる本でした。
(2017年3月刊。1700円+税)

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