弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2017年7月20日

北朝鮮、終りの始まり

朝鮮(韓国)

(霧山昴)
著者 斎藤 直樹 、 出版  論創社

本文500頁近くもある堂々たる大作です。北朝鮮の現代史をあますところなく論述していて、説得力があります。まずは現在の金正恩政権をどうみるか、です。
金正恩を後継者に選任するよう金正日に助言したのは、金正日の妹婿の張成沢だった。このとき金正恩は30歳にもなっていない青年。金正日は金正恩を補佐する後見人役を張成沢と夫である実妹の金敬姫に託した。この決定を意外と思ったのは、当時の組織指導部を牛耳っていた第一副部長の李済剛などの幹部たち。
金正日は、2011年12月17日に亡くなった。そして、2年後の2013年12月、張成沢が粛清された。
張成沢は2回も失脚し、左遷されながらも、復権を果たした人物である。
張成沢の取り仕切る党行政部は、権力中枢を占める党組織指導部、朝鮮人民軍、国家安全保衛部の幹部達と激しい利権争いを繰り広げた。
張成沢は金正恩を動かし、不可侵ともいえる朝鮮人民軍の利権を侵食しようとした。これに対して、朝鮮人民軍総参謀長・李英浩の配下は張と党行政部に対して激しい恨みをもった。総参謀長の解任が張成沢に対する人民軍の敵対心を一層強めたことは間違いない。
張成沢は、朝鮮労働党中央委員会行政部長、朝鮮労働党政治局委員、国防委員会副委員長などの要職を手中に収め、金正恩指導部で事実上の権力を掌握し、しかも中国指導部から北朝鮮における最も重要な人物の一人であると認知された。ところが、これについて北朝鮮の支配層のすべてが歓迎していたわけではなかった。
2013年7月、張成沢が催した盛大な酒宴の場で、側近たちが「張部長同志、万歳」と礼賛した。ところが「万歳」は、北朝鮮の最高権力者のみに許されたものだった。それを知って「万歳」したということは、張成沢が最高権力者を企むものという格好の口実を与えることになった。
張成沢は、朝鮮人民軍と外貨獲得競争で激しくしのぎを削った。漁業権は、朝鮮人民軍にとって重要な利権の一部であった。ところが、その漁業権が張成沢の取り仕切る党行政部が握るようになり、朝鮮人民軍幹部の怒りを買った。
2013年9月、金正恩は張成沢の側近たちをまずは逮捕して処刑した。そして12月には、張成沢を逮捕して、死刑判決が下され、即日処刑された。
張成沢は国家転覆陰謀行為に該当する。凶悪な政治的野心家、陰謀家、希代の友逆者というレッテルを貼られた。
祖父・金日成、父・金正日という二人の金は、自身の権力基盤に刃向う者たちに対して仮借なき粛清を続けながら、自身の権力基盤の確立と安定を図った。その意味で、金正恩が叔父にあたる張成沢を刃にかけたことも理解できる。金日成にはじまり、金正日を経て金正恩に至る三代にわたる金体制を通じて一貫して流れるのは、独裁体制の確立とその堅持のためには仮借なき粛清を常としてきた。金正日の葬儀で代表をつとめた7人のうち、これまで張成沢を含めた5人が既に排除されている。
金正日時代にまして、金正恩体制の権力構造は不透明で不確実であり、権力基盤は必ずしも盤石であるとは言いがたい。金正恩が朝鮮人民軍と手を組んでいる限り、「先軍政治」が優先され、中国や韓国などとの経済協力路線はなかなか進まない。金正恩は、基本路線として、経済再生と先軍政治の双方をかかげている。しかし、この二つは、本質的に相友するものなので、板ばさみにあうのは必至である。
いつ倒れるのか、周囲はひやひやしながら見守っているのに、なかなか倒れないという不可思議な国です。北朝鮮がミサイルを打ち上げるタイミングは、日本の支配層が苦境にあって、内政から目をそらしたときのことが多いという奇妙な現象があります。骨は折れますが、一読する価値が十分にある北朝鮮の研究書です。
(2016年3月刊。3800円+税)

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