弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2017年5月31日

108年の幸せな孤独

キューバ

(霧山昴)
著者 中野 健太 、 出版 KADOKAWA

前から気になっていた、この本を読んだのは、富山の鍛冶富夫弁護士のキューバ旅行記を読んだ直後、まさにその日でした。まったくの偶然の一致なのですが、そんなことも世の中にはあるのですよね・・・。
私は残念ながらキューバには行っていませんし、遠すぎるし、フランス語圏でもないので、恐らく行くことはないと思うのですが、カストロ、ゲバラそしてマルケル・ムーア監督の映画『シッコ』をみていますので、あっ、もうひとつ、例のキューバ危機ですね、キューバには強い関心をもっています。
この本は、キューバへの移民一世の島津三一郎氏が108歳の誕生日を迎えるまでをたどっています。島津氏は、やがて亡くなられましたが、キューバへの日本人移民の実際を知るうえで、貴重な生き証人でした。表紙の顔写真をみると、いかにも誇り高い男性だったようです。
キューバは人口1100万人。そこに108歳の日本生まれの男性が暮らしていた。20歳のとき、農業移民としてキューバに渡り、以来、日本に帰ったことは一度もない。
キューバ移民のあいだでは、1万ドルを日本へもち帰ることが成功の目安とされていた。
しかし、それを達成したのは、128人の日本人移民のうち1割もいなかった。
キューバを訪問する外国人は年間350万人。ハバナの民泊料金は、安くても1ヶ月に6万円ほどかかる。
島津氏が入居している老人ホームの入居費は月に200円。月に1000円の年金が支給されるので、生活費のすべてが年金でまかなえる。島津氏は108歳まで長生きできたのは、お金をもっていないからだと胸をはって説明する。
「お金のために争いが起こり、騙したり、やましくなったり、不安になったり、そして死んでしまう。長生きできない」
キューバでは、お金の心配をすることなく生きられる。人を騙さず、自分を騙さずに生きてきたと島津氏は胸をはる。
第二次大戦中、350人もの日系人が1943年2月に刑務所に強制収容された。そして1946年1月から3月にかけて釈放された。その厳しい差別的扱いを日系人一世は子どもたちに話すことはなかった。話せば、国(キューバ)を批判することになるからだ・・・。
キューバの老人ホームは要介護度によって入居者を選択していない。
キューバの老人ホームは、すべて国が運営していて、介護ビジネスは存在しない。老人ホームには専属医師が常駐している。老人ホームでは、3度の食事のほか、おやつも一日3回出る。島津は、全部食べる。食欲旺盛だ。
キューバには7万6506人の医師がいる。人口1000人あたりで6.7人。日本は2.3人、アメリカ2.5人と比べて、2倍以上。医師の4割の3万人がホームドクターとして活動している。
キューバでは、医師も製薬会社も民間ではない。つまり、医療で金もうけを競うライバルは存在しない。人工透析治療によって利益を得る人も会社もいない。
キューバは、国の財政難が深刻になっていくなかで、それまで以上に地区住民の予防医療に力を入れた。その結果、患者の重症化を未然に防ぎ、結果として医療財政の全体を抑制することができた。新生児や乳幼児の死亡率はアメリカより低い。
フィデル・カストロは、どんなに国内経済が疲弊しても、国民の命を守ることは国の最大の使命であると考えた。
これこそ、ホンモノの政治ですよね。老後を個人の貯えではなく、国が安心して暮らせるように保障するキューバの考え方を日本でも一刻も早く取りいれるべきだと痛感しました。
いい本です。元気が出てきます。
(2017年1月刊。1700円+税)
 フランス語検定試験(仏検)が近づいてきましたので、過去問にあたり始めました。朝と夜ねる前に1年分ずつやります。仏検一級を受けはじめたのは、なんと1995年からです。ですから、もう20年以上になります。3級から受験していますので、恐らく30年になると思います。
 肝心の成績ですが、準一級には合格していますが、一級は歯が立ちません。前置詞も動詞と名詞の書き替え、成句どれをとっても私にとっては超難問ばかり。あきらめることなく挑戦しているだけが取り柄の私です。

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