弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2017年5月14日

ヤズディの祈り

イラク

(霧山昴)
著者 林 典子 、 出版  赤々舎

イラクの少数民族ヤズディをイスラム過激派のISI(イスラム国)が攻撃していることを知った日本人カメラマンが現地に出かけて撮った貴重な写真集です。
ISIの拠点となっているモスルからわずか直線距離で80キロしか離れていない、クルド人自治区の中心都市エルビルにたどり着きます。そして、そこから、イラクにあるシンガル山の頂上にあるヤズディたちが避難生活を過ごしている場所に出向くのです。なんと勇気ある女性でしょう。おかげで、こうやって写真を通してその悲惨な状況をいくらか想像できるわけです。
ISI(この本ではダーシュと呼ばれています)は、ヤズディの男たちは皆殺しにて、女性は暴行し、奴隷として売り飛ばすのです。
生きのび、被害にあった女性たちの話は、どれも同じパターンです。男たちはどこかへ連れ去られて、銃声がして、もう戻ってこないのです。そして、女性は一ケ所に集められ、シャワーを使わせられて、一人ひとり売られていくのです。そして、この本に登場するのは、それでも脱出できた人たちだということでした。
この写真集に救いがあるのは、生き残った女性の表情が絶望に沈んではいないということです。美容師になるつもりだった女性が、今では、カラシニコフ(ロシア製の銃)を抱いて戦う兵士になったのです。
日本人の私たちの知らないヤズディの女性たちの気高さを知ることも出来る写真集でもあります。最初は写真だけ。キャプションもありません。後半に解説というか、自己紹介の文章があり、写真の意味が分かります。ぼやけた顔写真は、わざと識別できにくいようにしてあるわけですので、文句は言えません。
(2016年12月刊。2800円+税)

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