弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2017年2月 9日

児童相談所における子ども虐待事案への法的対応

司法

(霧山昴)
著者  久保 健二 、 出版  日本加除出版

 著者は福岡県弁護士会に所属する弁護士ですが、現在は福岡市の一般職員として子どもセンターの緊急支援課の課長として勤めています。その経験を生かした本です。
 児童相談所に常勤の弁護士が存在する第一の意義は、即応性。虐待事案では、一時保護や立ち入り調査など緊急に対応すべきことが少なくない。常に現場にいて職員とともに活動し、法的助言もまさに現場で即時に対応できる。そのことによって職員の法的革新にもとづく業務や心理的負担の軽減に寄与することができる。
 弁護士が常勤していることによって、隠れた法的問題を指摘してトラブルに対して予防的に対処することもできる。常勤弁護士は児童相談所の業務の適法性だけでなく妥当性を確保することができる。
著者は、児童相談所に警察官が常駐するのを当然としていいものかと問いかけてもいます。私も、この疑問は正当だと思います。
 面前DVというコトバを私は初めて知りました。子どもがDVを目撃することのようです。それは子どもの心理面に影響を与え、心理的虐待に該当する。とはいえ、面前DVは、ほかの虐待事案と比べると、子どもの安全自体は確保されていることが多いので、緊急に子どもの安全を図る措置をとらなければいけない事案は多くない。すべての面前DVについて、一律に同じ対応することは、児童相談所の乏しい人員体制を考えると、効果的な配分とは言えない。なーるほど、たしかにそうなんでしょうね。ひどい直接的虐待事案が優先されるべきなのですよね。
 ネグレクト事案のときには、具体的に何が不適切なのかを示さなければ、保護者が改善を図るのは難しい。不適切養育を具体的に指摘して、改善を促す必要がある。
 全国にいる里親(さとおや。養育里親として登録されている人数)は7900世帯で、実際に委託されているのは2900世帯。子どもの実数は3600人。児童養護施設は定員3万3000人のところ、現員は2万8000人(入所率84%)、児童自立支援施設は定員3750人に対して現員1400人(入所率37%)。
 ネグレクトは、必要な食事を子どもに与えないとか、必要な医療を受けさせないというだけでなく、子どもの不安に親がきちんと対応してやらない、不安を解消して子どもが情緒的に安定した生活が送れるようにしないで、放置し続けるという情緒的ネグレクトもある。その結果、子どもが親から安心を得ることができず、情緒的に不安定ななかで生活することになり、成長の過程で、家出や深夜徘徊、万引きなどの問題行動としてあらわれることがある。
 なるほど、そういうことですね。表情の乏しい大人を見ていると、きっとこの人は子どものときに親から愛情たっぷりにかまってもらえなかったんだろうなと私は見ています。
 児童相談所をめぐる法的諸問題のほとんどを網羅していますので、いわば百科全書のように実務上すぐに活用できる本になっています。著者の引続きのご健闘を期待します。
(2016年10月刊。3900円+税)

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