弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2016年11月15日

忘却された支配

朝鮮

(霧山昴)
著者 伊藤 智永 、 出版  岩波書店

中国人の強制連行は、日米開戦の1年後、産業界の要請を受け、日本政府が「内地移入」を閣議決定し、1944年2月から本格化した。3万8935人が拉致同然に連行され、鉱山、土木、建設、造船、港湾荷役など、35社の全国135事業場で、「牛馬にも劣る」労役を課せられ、6830人が死亡した。
敗戦後、日本政府は中国人強制連行について連合国側からの追及に備えて、専門調査員16人を全国に派遣して詳細な実態調査を行っていた。その調査結果は30部限定で極秘だったが、何者かが東京華僑総会にもち込んだりして世に出た。
ところが、韓国についての強制動員は、政策的に黙殺、封印した。
日本に侵略され交戦した戦勝国の中国、日本に支配され解放された植民地の朝鮮。実態は同じ戦時での強制連行労働でも、情報の整理と開示、補償と決着のつけ方が、これほど違っている。
紀州鉱山には英軍捕虜300人、朝鮮人労働者1350人が働かされていた。朝鮮人の半数は氏名すら分からない。国の施策にもとづき和歌山県が「朝鮮人労働者募集要綱」で毎年度の目標人数を承認し、会社が労務係を朝鮮に派遣していた。労務係は朝鮮に渡ると総督府そして割り当て地域の地元警察署に出向き、「手間賃」か「心付け」を100円ずつ渡し、警察署から朝鮮人の里長や区長に割り当て人数が伝えられた。日本へ行かされる人間は区長が選んだ。労務係は郡の警察署で待っていて、予定の人数だけ集められた徴用者を名簿と一緒に引き渡され、集団で紀州鉱山へ引率した。これは「強制連行」ではなかったが、同じようなものだ。
実は、戦前、私の父も同じ労務係として朝鮮から300人の労働者を三井化学に引率したことがあります。「喜んで日本に来る人もおったばい」と語り、悪いことをしたという罪悪感をもっていませんでした。それは、当時の朝鮮半島には、日本が激しく収奪していたことから、食うに困った人々が多かったことの反映です。
日本人は過去の負の遺産を忘却してはいけない。そのことを痛感させてくれる本です。歴史の掘り起こしは大切だと私はつくづく思います。
(2016年7月刊。2200円+税)

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