弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2016年10月14日

バーニー・サンダース自伝

アメリカ

(霧山昴)
著者 バーニー・サンダース 、 出版  大月書店

 思わず涙が出てくるほど感動しました。大学生時代の初心を、こうやって今なお貫いていること、そしてそれが多くの心あるアメリカ市民に支持されていること、それを知って私の心まで熱く震えてしまいました。すごい人です。
 バーニー・サンダースはアメリカで民主党の大統領候補にあと一歩というところまで迫りました。ヒラリー・クリントンが金持ち階級の代弁者だとして人気がないことにも助けられたのでしょう。でも、バーニー・サンダースの主張は、アメリカの多くの若者の心をがっしりつかんだのです。ここに私は、アメリカの未来があると思いました。
 バーニー・サンダースは社会主義者を名乗り、一貫して無所属だった。大統領選挙に向けてだけ民主党員になった。
 今のアメリカには貧困層と弱者を代表する主要政党がない。そして、貧困層を叩くことは、今や「上手な政治」だ。
「この国の貧困層は、母豚の乳を吸う大きな子豚だ。彼らは、この国のもたらす便益をみんなもっていってしまう。いつも人を食い物にしているんだ」
アメリカでも日本でも、保守反動の政治家は貧困層を叩いて、中間層の喝采を得ています。自らは金力も権力もある自民党の政治家が、ことあるごとに生活保護受給者を目の敵にして、ぜいたくな生活をしているかのように叩いています。そして、その尻馬に乗る、決してリッチではない中間層がいます。悲しい現実です。
 アメリカの現在の主たる危機は、失業ではなく、労働者階級の賃金が急送に低下していること。失業率が高いことは問題だが、それよりさらに深刻なのは、アメリカの労働者の実質賃金が過去20年間に16%も低下したこと。
 これは、日本も同じですよね。アベ政権下で、労働者の賃金が低下する一方なので、消費・購買力が低下しているため、日本の経営回復の目途がいつまでたってもたちません。アベノミクスの失敗は明らかです。
バーニー・サンダースは、シカゴ大学の学生のとき、人種平等会議、学生平和連合、青年社会主義者同盟の一員だった。図書館では、マルクス、エンゲルス、レーニン、トロッキー、フロイト、フロム、そしてもちろん、ジェファーソンもリンカーンも読んだ。すごいですね。そして、ベトナム反戦運動にも取りくんでいます。
サンダースが公職に立候補しようと思ったのは、今日この国の政治状況が本当に危険であることに多くの人が気がついていないと思ったから。
 はじめは1%、そして2%・・・。バーリントン市長に選出されたときには、わずか14票差(数え直しの結果、10票差)だった。ところが、その後は市長に3回も再選された。
サンダースの選挙運動の基本は戸別訪問。運動員が組んで、一軒一軒を歩いてまわり、対話して支持を広げていくのです。日本で戸別訪問が禁止されているのは、本当におかしいと思います。買収の温床になるというのですが、とんでもないことです。個別訪問を一律に禁止するのは憲法違反だとする下級審の判決がいくつも出ましたが、自民党は一向に公選法を改正しようとしません。買収で摘発されるのは圧倒的に自民党なんですけど・・・。
 アメリカ社会の重大な政治的危機は、働く人々が黙ってしまうことだ。もし組織労働者の5%が政治的に活発になれば、アメリカの政治的・社会的政策を根本的に変えることが出来るだろう。今日、大多数の低所得労働者は投票に行かない。働く人々の圧倒的多数は無力感を抱いている。
そして、投票率をあげるだけでなく、政治プロセスについて、市民への教育をもっとしっかりやらなければいけない。今こそ、学校で若者に民主主義の教育をすべきだ。
労働組合の積極的役割について、テレビのゴールデンタイムで語られ、紹介されるべきなのだ。
戦争は政治家が始める。そして、戦場で政府のために命を危険にさらした男女がいざ助けを必要としているとき、その同じ政府に背を向けられてしまう。許しがたい非道だ。
これは、アメリカのことですが、今、同じ状況が日本にも起きようとしています。
 アフリカ(南スーダン)へ日本の自衛隊を派遣して、なんで日本の平和が守れるというのですか。反対ではありませんか。日本の若者がアフリカの地で、殺し、殺されることを日本にいる私たちは黙って見ていいのですか。私は、そんなことは止めてほしいと思います。弁護士会も、そのための行動を起こしています。
 久しぶりにたぎる思いに接し、胸が熱くなりました。あなたも、ぜひ手にとってお読みください。 
(2016年6月刊。2300円+税)

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