弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2015年11月27日

老後破産

社会

(霧山昴)
著者  NHKスペシャル取材班 、 出版  新潮社

  いまの政治は「貧乏人」に本当に冷たいですよね。まともに税金を払っていない大企業には法人減税をどんどんすすめ、庶民には消費税10%を押しつけようとしています。
  政治って、弱者を保護するために必要なものだと思うのですが、アベ政権のやっていることは弱者切り捨てそのものです。そして、自分もその弱者になるかもしれない人たちが、その自覚のないまま「自己責任」論に踊らされています。
  この本を読むと、老後破産というのが、多くの日本人にとって、「明日は我が身」という状況にあることがよく分ります。その状況はあまりにも寒々としています。
  今のNHKは、モミイ会長の下で、アベ政権にタテつかない報道がひどくなっていますが、それでもまだ、こんな良心的な番組が残っているのを知ると、ほっとします。
  いま、超高齢社会を迎えた日本で「老後破産」ともいえる現象が広がっている。
  「お金がないので、病院に行くのをガマンしている」
  「年金暮らしなので、食事は1日1回。1食100円で切り詰めている」
  現に「老後破産」状態にある人も、実は、みな若いころには、そんなことはありえないと考えていた。元気に働いているし、税金も払っているから、自分の老後は政府がなんとかしてくれるはず・・・と、幻想を抱いていた。
  お金がないから、電気をまったく使わないで生活している人がます。もちろんテレビは見ません。乾電池で聴けるラジオだけ・・・。なんということでしょうか。
  年金を10万円(月額)うけとっているので、生活保護の適用はないと考えている人がいる。まったくの誤解。そして、自宅(持ち家)があるから生活保護は受けられないと考えている人が多い。これも誤解。
  大阪の橋下市長は「生活保護は甘すぎる」と攻撃していますが、とんでもありません。生活保護を受けられるはずの人の多くが申請すらしていないのが日本の現実です。実に冷たい人物です(橋下氏が弁護士だというのが本当に残念です)。
  貧乏したら何が辛いかって、周りの友だちがみんないなくなること。だって、お金がないから食事会やら旅行に参加することができない。誘われるたびに断っていると、次第に断ることが辛くなる。そうすると、顔をあわせなくなる。そのうち誰からも誘われなくなる。
  東京では年収150万円が生活保護の水準。3割をこえる人がそれに該当する。
  配偶者を亡くすと、年金が一人分減ったために生活を維持していけなくなる。
年金も介護保険も、家族と同居するのがあたりまえの時代につくられたもの。今は違う。しかし、制度の見直しはされていない。
  餓死者まで頻発する現代日本社会をとらえたNHKの番組が本になっています。本当になんとかしなくてはいけません。年金一揆が起きて不思議ではないのです。
(2015年8月刊。1300円+税)

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー