弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2015年6月25日

裁判に尊厳を懸ける

司法

                                (霧山昴)
著者  大川 真郎 、 出版  日本評論社

 心が激しく揺さぶられる思いがしました。とてもいい本です。司法関係者には一人でも多く読んでもらいたいと思いました。
 冒頭で紹介される、和歌山大学生「公務執行妨害」事件は圧巻です。何より、書き出しがうまい。読ませます。判決宣告人言い渡そうとした裁判長が途中で言葉に詰まり、涙があふれ出したというのです。1976年11月25日午後6時すぎの和歌山地裁法廷での出来事です。
 この日、弁護人が午前1時から詳細に無罪弁論をし、被告人となった元大学生二人が最終意見陳述をした後のことです。よほど、裁判長は二人の言葉に心打たれたのでしょう。
 事件が発生したのは1966年(昭和41年)10月です。私がまだ高校3年生、受験勉強のラスト・スパートをかけていたころ、つまり、私が大学に入る前のことです。
 いったい二人は何をしたというのか。要するに何もしていないのです。
 夜中、3人の巡査が勤務時間外に上司の自宅で飲食し、酒に酔って帰宅しようとしていると、電柱に3人の学生が「ベトナム戦争反対」の張り紙をしているのを発見した。3人の巡査は、いきなり追いかけ、そのうちの学生1人をつかまえ、近くの派出所に連行した。すると、つかまった学生の釈放を求めて大勢の学生が集まってきた。その学生たちに向かって、一人の巡査が「アホンダラ」と叫んだため、学生たちは激しく抗議した。警察官もパトカーで応援に駆けつけ、巡査を救出して本署(和歌山西署)に逃げ帰ろうとしたあたりで、その場にいた学生二人が警察官に捕まった。この二人の学生は、日ごろからリーダーとして警察に目をつけられていたのだった。
学生二人は警察官たちから暴行を加えられた被害者なのに、逆に暴力を振るったとして、「公務執行妨害」罪で起訴された。
 それから裁判は10年かかった。なんということでしょう。わずか1時間ほどの出来事のために、警察官たちが口裏をあわせて嘘の証言をくり返したことから、無罪の立証に10年もの歳月を要したのです。証人は21人。
 著者は司法修習生として裁判を傍聴し、のちに弁護人となったのでした。
 二人の「被告人」の最終陳述は、胸をうつものがあります。自然に涙があふれ出てきます。
 「この10年間は、苦しみの10年間であったと同時に、友情と連帯というかけがえのない貴重なものを得た期間でもありました」
 このとき、年老いた母親、そして就学前の子どもたちを法廷に来てもらっていたそうです。これって、なかなか出来ることではありませんよね・・・。
 裁判長は、無罪を言い渡したあと、こう言った。
 「裁判所としても、裁判がこのように長くかかったことについては、被告人の諸君に対して、申し訳なく思っています。・・・これからの人生に向かって、どうか幸せな御家庭を築いてください」
 検察官は控訴せず、無罪は一審で確定した。捜査当局は、一言の謝罪もなしに、一つの事件を終了させた。
この二人は、今もお元気なのでしょうか。著者によって、久しく忘れられていた事件に光が当てられました。この二人が、必ずや今もお元気に活動しておられることと祈念します。
 7話からなる本の一話の紹介にスペースを割きすぎました。続く2話の杉山彬(あきら)弁護士の接見妨害事件のとりくみも驚嘆すべきものです。弁護人が面会切符をもらわないと被告人に自由に面会できないという、今では考えられない制限を受けていた当時の不屈のたたかいの記録です。ぜひ、今の若手弁護士にも知ってほしいと思います。
 著者の本は、単行本としては4冊目のようです。ますます文章も洗練され、読みやすくなっています。いろんな点で、私の見習うべき先輩として敬愛しています。今後、ますますの健筆を期待します。
(2015年6月刊。1700円+税)

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