弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2015年6月24日

牛と土

社会

                              (霧山昴)
著者  眞並 恭介 、 出版  集英社

 3.11のあと、福島第一原発の近くで飼われていた牛たちが、その一部は今もそのまま生き残っていて、その面倒をみている人々がいるのです。驚きました。もう、この牛たちには商品価値はありません。私も、食べたくはありません。
 では、なぜ、牛たちの面倒を今なおみているのか・・・。
 浪江町の牧場に双子の兄弟牛がいる。3.11がなければ、とっくに牛肉になっていた筈なのに、3.11のあと4年たっても生きている。この双子の兄弟牛たちは、原発から10キロ地点の牧場で暮らしている。ここの線量は毎時30マイクロシーベルト。人間は、そこに1日半もいると、年間1ミリシーベルトをこえてしまうほどの高い放射線量だ。
3.11当時、警戒区域内に牛3500頭、豚3万頭、鶏4万羽がいた。
 牛のオスには漢字で、メス牛にはひらがなの名前をつけるのが慣例だ。
 選ばれた牛の精液は、冷凍保存されて、十数年間にわたって交配につかわれる。
 そして、99%のオスは生後2~5ヶ月で去勢され、いわゆる肉牛となる肥育素牛(もとうし)として飼われる。
 繁殖用のメス牛は、2歳で初産し、その後、10年ほど子牛を産み続ける。15産もの出産をするメス牛も珍しくない。
 子牛が母牛と別れるのは、5ヶ月くらいが最適。そして一週間ほどかけて親子を切り離すのが健康にいい。
 恐れの感情は牛の成育を阻害する。だから、牛飼は、牛をどなったり、叩いたり、けったりしない。牛の首をなでながら語りかけ、ストレスのない快適で清潔な牛舎環境に配慮している。
 牛は記憶力が良く、恐ろしい体験は決して忘れない。安楽死させられる危険性を察知した牛は、たとえおいしそうな餌がおいてあっても、捕獲用の柵内には入らない。仲間が捕獲され、二度と立ち上がらなくなるのをみていた牛、自ら安楽死寸前にまでいって逃げ出した牛は、餌の誘惑とたたかいながらも決して警戒心を失わない。
 子牛はすぐに下痢をする。人間が手をかけてやらないと育たない。
 福島の地で牛を飼い続けるということは、人間が福島に住み続けるかどうかと同じことなんだと私は思いました。政府の「収束宣言」で3.11は終わったかのような幻想がふりまかれ、原発の安全神話が復活しています。とんでもないことです。
 安倍首相と、自・公政権の大臣の家族に、「フクイチ」の周辺に住む覚悟がありますかと私は尋ねたいと思います。
 ちなみに、私ははっきり断ります。そして「収束宣言」なんて、インチキだと考えています。
(2015年3月刊。1500円+税)

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