弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2014年10月31日

新聞が警察に跪いた日

社会


著者  高田 昌幸 、 出版  角川文庫

 少し前のことですが、検察庁の裏ガネ報道というものがありました。それは恐らく内部告発が発端になったのだと思います。現職の幹部級の検察官が内部告発をしようとして、記者会見の当日に逮捕されてしまいました。検察庁による口封じ作戦です。
 検察庁よりもっと大々的な裏ガネづくりをすすめていたのが警察です。なにしろ図体がでかい。全国20万人以上の警察官をかかえ、津々浦々の警察署が署長以下、裏ガネ作りに精を出していたことが暴露されました。これも、主として内部告発によるものでした。
 北海道警察は、そのなかでもトップクラスの幹部警察官(複数)が実名を出して裏ガネ作りを告発したことで、特筆されます。そして、それも受けて北海道新聞は警察の裏ガネづくりを叩くキャンペーンを大々的に展開したのでした。
 ところが、人の噂も45日とやらで、ほとぼりが冷めたと思った北海道警は、北海道新聞社に報復措置に出たのです。警察の協力が得られない新聞社は哀れです。たちまち北海道新聞社は警察に屈して、ひそかに取引を始めたのでした。道警の裏ガネづくりのキャンペーンをはっていた記者たちは次々に他の部署へ飛ばされていきます。
この本の著書は、ついに海外(ロンドン)へ転任されてしまいました。それで終わりではありません。道警の意を受けた人物から、損害賠償請求の裁判を起こされ、被告席に立たされたのです。まさしく、警察は甘いところでは決してありません。
 北海道警察には1万人の警察官がいる。裁判の原告となった佐々木友善は警視庁にまで昇進していた。道警の総務部長であり、裏ガネづくりの事情に精通していると思われるエキスパート。
 警察は上意下達(じょういかたつ)の鉄の団結を誇る組織である。警察の裏ガネづくりを報道すると、道警全体を敵にまわしてしまう。事件・事故のネタもとれなくなってしまう。それでもいいのか・・・。こんな心配と不安の声があがった。しかし、キャンペーンの結果、北海道警察は裏ガネづくりを認め、道警本部長は北海道議会に出席して謝罪し、内部処分にも行った。けじめをつけたということ。
 そのうえで、反撃に転じた。いわく、道新(どうしん。北海道新聞のこと)は生まれ変わる必要がある。出直す必要がある。警察から、このように言われて、北海道新聞社は屈してしまった。
 編集局長だなんだと言ったって、たんなるサラリーマンなんだ。司(つかさ)、司の世界だ。それくらい、組織人なら分かるだろう。そうやって権力(警察)に屈したのです。哀れです。
 警察の裏ガネづくりは、今ではまさか公然とやっているわけではないでしょうが、裁判所がその本質から目をそらして、片言隻句をとらえて新聞記者を敗訴させました。本当に許されないところです。
 それでも、新聞記者として、権力の横暴に屈服しない気概を今なお示している著者に対して、熱い熱烈なエールをお送りします。
(2014年4月刊。680円+税)

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