弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2014年10月30日

国家の暴走

社会


著者  古賀 茂明 、 出版  角川ワンテーマ21新書

 経産省のキャリア官僚だった著者が安倍政権の危険性を鋭く告発した本です。
 その現状分析と大胆な問題提起について、ついつい、「そうだ、そうだ」と同感の叫び声をあげてしまいました。ただ、最後の「第四象限の党」のところは、首をかしげてしまいましたが・・・。
 安倍首相は、自ら中国や韓国との関係を悪化させて国民の不安感を煽り、両国に対する日本国民の敵意を高めている。こうした国民感情は、安倍政権の暴走を助けている。
 安倍政権が暴走すれば、中国・韓国の日本への敵対的な言動も高まる。そうなれば、ますます安倍政権は暴走しやすくなる。こうして、「暴走スパイラル」が始まると、もう誰も止められなくなる危険性が高まる。これって、怖いことですよね・・・。
安倍首相のいう「立派な国、強い国」とは、「軍事的に立派な国、強い国」であることが明らかとなった。
 多くの若者が、「自分たちの生活を良くしてくれそうだ」と感じている。この意味で、安倍首相は、なんと「改革派」なのだ。これは、若者に対する安倍政権の広報戦略がきわめてうまくいっていることを意味している。
 月1億円、年に10億円もの税金を好き勝手に使っていいという内閣官房機密費がマスコミ対策や世論対策に使われている。そして、その効果は非常に大きい。マスコミの社長たちは、安倍首相の声がかかるのを喜ぶだけ。批判精神を忘れ去っていますよね・・・。
 ここ数年の日本は、経済主導から、軍事主導の国づくりに転換されつつある。
 日本の国土を守るうえでは、経済的基礎がガタガタでは、その上に軍事力をのせて、国を支えることが出来ない。日本経済の再生なくして、国を守ることなんかできない。
 安倍首相の願望は、「世界の列強」になること。列強国を名乗るために、強い軍隊を保有し、すぐに戦争ができるようにする。そのため、「産めよ、増やせよ」政策を推進し、憲法9条を変えて国防軍の保持を義務づけ、集団的自衛権の行使や、国の集団安全保障にもとづく武力行使を容認する。
 軍事産業が大きな政治力をもてば、日本は軍事費を削減できなくなる。そして産業構造が大きく変わり、日本は「戦争を待ち望む国」になる。
 安倍首相は、議論する能力がない。いつも質問と答弁がかみあわない。
 日米安保条約は、片務条約ではない。
 最終的な抑止力となるのは、強い軍隊ではない。国際世論であり、国際的な経済の結びつきである。現実に、これらが戦争に対する最大の歯止めになっている。
著者の指摘は、いずれもきわめてまっとうなものです。しかし、依然として安倍政権の暴走は止まりません。その点について、マスコミの責任はきわめて重大だと私は思います。しかし、国家の暴走を止めるためには、他人事(ひとごと)みたいに傍観せず、私たち国民がいっそう自覚し、行動に起ちあがるべきなのではないでしょうか・・・。
(2014年9月刊。800円+税)

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