弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2014年9月 5日

靖国参拝の何が問題か

社会


著者  内田 雅敏 、 出版  平凡社新書

 今年の夏、8月15日には靖国神社への道が大混雑したそうです。
 国民の少なくない人が二代の天皇が靖国神社を参拝しない理由を知らないように思います。この本は、その理由をふくめて、靖国神社と靖国参拝の問題点を縦横に、そして明快かつ分かりやすく語り明かしています。
 安倍首相が去年12月末に靖国神社を参拝したとき、アメリカ政府は「失望した」と公式に表明した。アメリカのウォール・ストリート・ジャーナルは、次のように指摘した。
 「安倍首相の靖国参拝は、日本の軍国主義復活という幻影を自国の軍事力拡張の口実に使ってきた中国指導部への贈り物だ」
 そうなんですよね。安倍首相の言動こそが、東アジアの緊張関係をひたすら悪化させている主な要因なのです。
 ワシントン・ポストは安倍首相の歴史認識を次のように批判した。
 「安倍首相は歴史を直視することができない。中国や韓国の怒りは理解できる」
 また、アメリカの連邦議会調査局は、安倍首相の歴史認識をめぐる言動について、「地域の関係を破壊し、アメリカの利益を損なう恐れがある」と指摘した。
 靖国神社は、先の戦争を「聖戦」とし肯定し、戦死者を「護国の英雄」として顕彰している。
 韓国や中国が靖国神社参拝を批判するのは、靖国神社が、公式に表明されてきた日本政府の歴史認識とまったく相反する歴史認識を主張しているからである。
 靖国神社は、先の大東亜戦争について正しい戦争だったという聖戦史観に立ち、A級戦犯を合祀しているだけでなく、そもそも戦死者の「追悼」施設ではなく、「顕彰」施設である点に、その本質がある。
 靖国神社は、英霊の顕彰の目的で設立された沿革を有する。天皇の兵士の戦死者を「護国の英霊」として顕彰するためには、戦死した戦争は不義のものであってはならない。したがって、南京大虐殺もなかったし、軍の強制による「従軍慰安婦」も存在していなかったということにされる。
昭和天皇は、A級戦犯の合祀が明らかになった1975年を最後に、靖国神社への参拝をやめた。
 厚生省がA級戦犯12名の氏名を記載した「祭人名票」を靖国神社に届けたのは、1966年2月。当時の宮司は預かったままとした。ところが、次の松永宮司が1978年10月の例大祭で合祀した。
 靖国神社は、今は一宗教法人であるが、いずれは戦前と同じように国家施設になることを目論んでいる。だから、それができる前に国立追悼施設ができてしまうと「戦死者」の魂を独占することが出来なくなると考え、国立追悼施設の建立に反対している。
 著者は、今からでも遅くないから、すべての戦没者を追悼する無宗教の国立追悼施設をつくるべきだと提唱しています。私も大賛成です。
 著者は、私の敬愛する弁護士です。中国人の強制連行事件など、平和問題に広く活躍してきました。これからも、ますます元気にがんばってください。贈呈ありがとうございました。
(2014年8月刊。740円+税)

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