弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2014年9月 4日

セブン・イレブンの足跡

社会


著者  田村 正紀 、 出版  千倉書房

 私がコンビニに足を踏み入れるのは出張のときに限られます。スーパーに入るのには抵抗がありませんが、コンビニは強い心理的抵抗感があります。明るすぎる店内の照明をふくめて、あまりにも人工的すぎて、店に入ったとたん、いかにも管理された人間になってしまう気分に襲われ、それが嫌なのです。
 コンビニの店員がかけてくる声も形にはまったマニュアル本どおりで、心が通いません。
 コンビニではないフツーの店があると、そこに入って、ほっとします。
 それにしても、コンビニの躍進ぶりはすごいですよね。今や、すっかり日本の有力な成長産業になってしまいました。いえ、海外にまで出かけているのですよね。
 1990年ころまでは、コンビニは都市圏に対応した業態だった。1990年以降、各地の中小小売商が地滑り的に衰退していった。地方都市の商店街、町村部の零細商店が衰退し、周辺住民のなかに買い物難民が生まれていった。コンビニは、それらの人々の救世主となった。
 1990年代の不況下で、セブン・イレブンの点あたりの粗利益率は、1980年代に比べ20%台から30%へと飛躍的に上昇した。
 粗利益を高める方法の第一は、一店あたりの売上高を大きくすること。一日の売上高を日割りした日販をコンビニ業界は重視する。セブン・イレブンは日販の圧倒的格差を長年にわたって維持してきた。
1990年度に、セブン・イレブンの日販100に対して、ローソンとファミリーマートは63と75だった。2012年には、ローソンは77に、ファミリーマートは78と、差を縮めた。それでも依然として格差は大きい。その秘訣は、いち早くPOSを全店に導入したこと、それによって、回転率の低い「死に筋商品」を見つけ、売り場から排除した。さらに、新製品の導入も大きい。
 フランチャイズ・システムによるコンビニにも当然ながら問題があります。本部と加盟店とのあいだの利害衝突です。
粗利益を分配するとき、この粗利益をいかに算出するかが争いになった。そして、ロスチャージ問題がある。廃棄商品を加盟店に負担させるのは、本部の横暴だと裁判に訴えられた。セブン・イレブンは裁判にこそ勝ったけれど、コンビニに対する社会的イメージは低下した。この裁判を通じて、コンビニ店経営は必ずしも楽な商売ではないというイメージが広がった。
 私も親しい人がコンビニ経営を始めようとしたら止めますね。現代の奴隷みたいな存在だからです。とても独立自営業者だとは思えません。身内に不幸があっても、店を閉めたらいけないだなんて、あまりにも非人間的ではありませんか・・・。
 セブン・イレブンの持続的成長について、もっとも驚くべきことは、その経営利益が持続成長していること。
 セブン・イレブン1号店のオープンは1974年5月。創業して6年目の1979年に東証二部に上場し、その2年後の1981年には東証一部に上場した。上場までの期間は、当時、史上最短だった。
 大型店紛争の嵐を避けるため、小売店としてのコンビニに鈴木敏文は着目した。ただし、これは鈴木だけではない。
 コンビニは、全国どこへ行っても、100㎡前後の店舗面積3000品目の品ぞろえ。そして、24時間営業。
 24時間営業にすると、来店数は1日700人が1200人に、売上げは36万円が54万円に増えた。売上げが50%以上のびただけでなく、粗利益率も向上した。夜間の客は粗利の大きいファーストフードを求めたから。
 セブン・イレブン本部は加盟店の粗利益の43%をロイヤルティとして吸い上げる。ロイヤルティ率は、ローソンやファミリーマートが30%程度なのに、セブン・イレブンは40%をこえる。
セブン・イレブンは3ヵ月前の予約仕入れである。セブン・イレブンが年間に投入する新製品は4000分目ほど。セブン・イレブンの店頭に並ぶかどうかで、全国市場に展開できるか分かれる品目が増えた。
いかにも近代的商法の下で客は管理されているのですよね。私は、これが嫌なのです。
 そして、「経営者」には自由がない。休むのも、商品の仕入れについても・・・。
 このまま、世の中がコンビニだけになったら、日本社会はうるおいのない、一見すると明るい、しかし、内実はまっ暗な世の中になってしまわないか、私は大いに心配しています。
(2014年5月刊。760円+税)

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー