弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2014年6月11日

「アラブ500年史」(下)

世界(アラブ)


著者  ユージン・ローガン 、 出版  白水社

 1952年7月、エジプトのファルーク国王は国外へ去った。国王に代わった自由将校団は平均年齢が34歳だった。
 1954年10月、ムスリム同胞団がナセルを暗殺しようとした。しかし、ナセルは銃声にたじろがず、演説をそのまま再開した。ナセルは1954年末から70年に死ぬまで、エジプトの大統領とアラブ世界の総司令官をつとめた。
 モロッコでは、フランスは独自のテロ組織をつくり、ナショナリストを暗殺し、支持者たちを威嚇した。
 1955年8月、アルジェリアではFLN(民族解放戦線)が入植者の村を襲い、男女子ども123人を殺害した。フランス軍は直ちに残酷な報復措置に出て、少なくとも数千人のアルジェリア人を殺害した。
 1956年のスエズ危機は、エジプトにとって、軍事的敗北を政治的勝利に変えた典型的な例だった。ナセルの大胆な言葉と勇気ある抵抗は、どんな軍事的成功にも勝るものだった。
 1950年代にエジプトは地域のもっとも影響力のある国家として頭角をあらわし、ナセルはアラブ世界の文句なしのリーダーになった。ところが、ナセルの目覚ましい成功の進展は、1960年代にしぼんでしまった。
 1962年以降、ナセルはエジプト革命をアラブ社会主義路線に乗せた。ソ連と運命をともにして、その国家主導型経済モデルに従うことにした。
 アルジェリアの独立戦争は、1962年9月のアルジェリア民主人民共和国の樹立まで、8年間、全土で猛威をふるった。100人以上の人々が生命を失った。
 1956年9月、首都アルジェで3発の爆弾が炸裂した。「アルジェの戦い」として知られる激しい作戦の始まりだった。
 1958年には、フランス自体がアルジェリア問題で分裂しつつあった。1954年のフランス軍は6万人だったのが、1965年には50万人と9倍にもふくれあがっていた。フランスの納税者は、巨額の戦費を負担に感じるようになっていた。徴兵されたフランスの若い兵士は言語を絶する恐怖の戦争に巻き込まれたことに気がついた。
 フランスの世論は、フランス兵が第二次大戦中に、野蛮なナチスがフランスのレジスタンス運動を抑圧するのと同じ方法をつかったことを知り、衝撃を受けた。
 アルジェリアの危機は、フランス人共和国そのものを崩壊させる危険があった。そのことに気がついたドゴールは立場を変え、アルジェリアのフランスからの離脱をフランス国民に覚悟させはじめた。そして、ドゴール暗殺計画が企図された。それでも、1962年、アルジェリアの国民投票はほとんど全員一致で独立に賛成した。1962年6月だけで、アルジェリアのフランス人30万人が出国した。
 1967年のナセルにとって、イスラエルとの戦争は、いちばんやりたくないものだった。しかし、自分の成功のせいで、やらざるを得ない羽目に陥っていた。
 1967年の敗北のあと、ナセルは辞職を申し出た。しかし、民衆が、それを阻止した。幻覚から覚めた人々は、アラブ世界において、政府に対するクーデターや革命を引きおこした。
 1967年の戦争で、アメリカがイスラエル側に立って参戦したというナセルの主張は事実無根だった。実際は、まったく逆で、イスラエル軍はアメリカの情報収集艦「リバティー号」を攻撃し、アメリカは多数の死傷者を出した。
 1964年、「ファタハ」のイスラエルに対する作戦は軍事的には失敗だったが、宣伝行動としては成功した。アラブ世界は、波乱に富んだ1970年代に、石油の力によって変貌した。しかし、石油を武器としてつかうのは、言うのはやさしく、行うのは難しい。
 1973年10月、エジプト軍がシナイ半島に進攻し、基地を築いた。「10年戦争」は、外向的勝利でもあった。
 1970年代、テロリスト暴力が吹き荒れるなか、パレスチナ強硬派とイスラエル諜報機関「モサド」の双方とも、積極的に敵を暗殺していった。
 ヨーロッパの軍需企業は、欧米寄りの「穏健な」アラブ諸国に対して、アメリカと競って重火器を売り込んだ。
 1981年10月6日、サダド・エジプト大統領が公衆の面前で兵士たちから暗殺された。
 1983年10月23日、レバノンのベイルートで強力な爆弾が自爆攻撃によって爆発し、300人が死亡した。アメリカ海兵隊の将兵241人、フランス軍の将兵58人がふくまれていた。
PLOの指導者アラファトをイスラエル軍は暗殺しようとした。
 イスラエルの侵攻ほど、レバノンにイスラム原理主義運動を助長した出来事はない。「ヒズボラ」が生まれたのは、イスラエルに負うところが大きい。パレスチナ人は、イスラエル軍との対決で決して武器をとろうとしなかった。非暴力であることが、パレスチナ人のさまざまな運動家を「インティファーダ」に引きつけた。
 アラブ世界の揺れ動く内情を少しでも理解しようと思い、上下2巻の大作に挑戦してみたのです。少しだけ感触を得ることができました。
(2014年1月刊。3300円+税)

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