弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2014年3月20日

パワハラに負けない

司法


著者  笹山 尚人 、 出版  岩波ジュニア新書

 とても分かりやすい、労働法の入門書です.大学生向けの教科書として、広く普及できたら、日本は、もっとまともな国になるのではないかと思いました。
なにしろ、今の自民・公明政権は財界言いなりで、労働者の使い捨てをギリギリすすめていますから、労働者の権利なんて絵に描いた餅ほどの軽さでしかありません。ひどい社会です。そんな社会だから、秋葉原事件や食品工場での毒物混入事件が起きるのではないでしょうか。中国の毒入りギョーザ事件も同じだと思います。
自分が大事にされていると思わない労働者は、追い詰められたら、とんでもないことをして社会に報復してしまうのです。もっともっと、働く人を大切にする社会にする必要があります。
 それにしても、この本は読ませるストーリーになっています。まだ40代の若手(中堅)弁護士ですが、これで何冊目なのでしょうか。読みやすさと、解説の深さに息を呑んでしまいそうになります。
 主人公は、望まずして労働弁護士になった阿久津弁護士です。パワハラ事件の相談を受け、裁判を担当するなかで、事件と先輩弁護士たちに鍛えられ、物の見方がぐんぐん変わっていき、人間としても大きく成長していく姿が生き生きと描かれています。そして、話の途中では、なんと、自分自身がパワハラの加害者になったというエピソードまであるのです。心憎いばかりの筋立てです。いやはや、完全に脱帽です。
労働契約とは何か、が語られています。
 労働者は奴隷ではない。だから、対等の立場で契約する。これは、口で言うのは簡単ですが、実践するとしたら、それこそ血のにじむ思いをせざるをえなくなります。
 日本にはブラック企業が現に多く存在している。使用者と労働者が、まるで昔の殿様と家臣のような関係になっている。これは、おかしい。明らかに法律の考え方に合致していない。
身の危険があるようなら、労働者は、たとえ業務命令であっても就労義務は負わない。これは、千代田丸事件についての1968年12月の最高裁の判例。
パワハラ事件では、ICレコーダーによる録音が決め手になることがある。
 民事訴訟では、音声記録が相手の承諾を得ていないから証拠としての価値がないとされることはない。パワハラの被害者は、自分が今まさに人格の崩壊をさせられようとしているのだから、自分の身を守る手段として録音するのは、必要やむえをえざる対抗手段なのだ。
 まことに、そのとおりだと私も思います。大変基本的で大切なことが盛り沢山の入門書です。若手弁護士、そして子どもたちに大いに読んでほしいものです。
(2013年11月刊。840円+税)

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