弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2014年3月 5日

世界を動かす海賊

社会


著者  竹田 いさみ 、 出版  ちくま新書

 古くはマラッカ海峡、そして今はソマリア沖の日本関連の船舶を守ることは大切です。
 しかし、だからといって、自衛隊を軍隊にして重武装し、それらの海へ派遣すべきだということにはなりません。そんなことで守られるのなら、アメリカ海軍が世界中にいるわけですから海賊なんていないはずなのです。
 海賊行為とは、国際法にしたがえば「公海」において、「私的目的」のために行う「他の船舶」に対する「暴力行為」や「略奪行為」を示す用語として明確に定義されている。
インド洋を航行する船舶は1ヵ月に4000隻、1年では5万隻にのぼる。日本関係の商船は、そのうち1割の5000隻とみられる。
 また、スエズ運河とアデン湾を航行する船舶は1年間で2万隻、日本関係は1割の2000隻ほど。武装して海賊の出没する海域で、これだけの民間商船が危険に直面している。そのため、大半の民間商船は、武装した海賊グループから身を守るため、MSCHOAと
UKMTOという二つの海洋安保保障のネットワークに登録し、情報交換を緊密にしている。
 海賊の発生件数は1991年の107件が2012年には297件と、3倍に増加した。
 ソマリア海賊は、チーム制を導入し、母船と小型ボートを組み合わせている。一つのチームの基本単位は3隻からなる。司令塔となる母船が1隻と、小型ボート2隻の3隻だ。一つの海賊チームには、10~20人の海賊で編成される。ソマリア社会の基本単位である血縁集団(クラン民族)ごとに編成される。
 ソマリア海賊は、ロシア・モデルの自動小銃とロケット砲を標準装備している。いまでは、中国のGPSと衛星電話を所持している。小型ボートは、ヤマハ発電機の船外機を2機設置している。
ソマリア海賊が獲得した身代金は1年間に1億ドル、100億円ほどと推定されている。そして、身代金としては、2008年以降に印刷された新券の米国100ドル紙幣が指定される。これは、北朝鮮が密造する米国ドルの偽造紙幣をつかまされないための用心でもある。この身代金のおかげで、ソマリアの集落には、トヨタのラドクルーザーが走り、レンガとセメント造りの1戸建て住宅が建設ラッシュとなり、衛星放送を受信できるパラボラアンテナが林立している。
 身代金の大半は、ドバイやケニアなどのソマリア周辺国から英国や欧州に還されているとみられている。
このソマリア海賊は、ソマリアのクラン(民族)社会が独自に創設したコーストガード(沿岸警備隊)の出身者とみられている。コーストガードの人材研修プログラムは、米英欧の大手民間セキュリティー企業によって担われたが、それによって養成された人間が海賊に変身していった可能性がある。
日本は海上自衛隊の護衛艦をアデン湾に派遣している。そして、アフリカのジプチに活動拠点を設置し、活動を続けている。そして、2011年3月11日、日本の海上保安官8人がソマリア沖の海賊を逮捕し、日本へ護送した。
このソマリア海賊の裁判は東京地裁でおこなわれていましたが、通訳の確保は大変だったようです。何しろ、ソマリア語の話せる人が、日本にそんなにいるとは思われませんから・・・。
 この本は、海賊処理の難しさを現場取材を通じて明らかにしています。関心のある人には必読の書だと思いました。
(2013年5月刊。760円+税)

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