弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2014年1月17日

巨大戦艦・大和

日本史(現代史)


著者  NHK取材班 、 出版  NHK出版

 菊花輝く軍艦は、艦底一枚下地獄。どちらもみじめな生き地獄。そんなこととはつゆ知らず、志願したのが運の尽き。ビンタバッタの雨が降る。天皇陛下に見せたいな。
 これは戦前の海軍でうたわれていた歌とのことです。将来を奪われて、命を奪われた兵士たちが哀れです。戦艦大和を戦前の日本人の大半は知らなかったというのです。これには驚きました。完全な情報統制下に置かれていたのです。
 ところが、アメリカのほうは初めのうちこそ知りませんでしたが、あとでは日本軍の暗号を全部解読していましたので、大和のことは手にとるように分かっていました。日本人に対する情報統制なんて、何の意味もなかったのです。今回の特定秘密保護法も、結局、同じことでしょう。上部の支配層にとって都合の悪いことを国民に隠し、アメリカにはすべて筒抜けにするのです。それも暗号解読ではなく、日本政府がアメリカに法にもとづいて、うやうやしく情報を差し出すのです。
 とんでもない法律です。こんなことをしながら厚かましくも国民に対しては愛国心を押しつけようというのですから、信じられません。
 昭和19年10月、戦艦武蔵はアメリカ軍の飛行機から集中攻撃を受け、あえなく沈没した。
 魚雷20本、爆弾20発が命中した。
 武蔵が目の前で沈んだので、大和の乗組員は皆がっかりしてしまった。不沈戦艦ではないことが実証されたから・・・。「不沈神話」はもろくも崩れ去ったのである。
 昭和20年4月、大和に特攻作戦が命じられた。伊藤整一中将(司令長官)は特攻作戦に反対だった。
 「目的地に到達する前に壊滅するのが必至だ」
 海上護衛総司令部の大井篤大佐(参謀)も反対した。
 「大和につかう重油4000トンがあれば、大陸からの物資輸送が活発にできる。また、日本海への敵潜の侵入をくいとめるのにも大いに役に立つ。大和につかう4000トンは、いったい日本に何をもたらすのか。敵をして、いたずらに『大和、討ちとったり』の歓声をあげさせるだけではないか」
 特攻出撃を主張した連合艦隊主席参謀の神重徳大佐は、次のように主張した。
 「大和が生き残ったままで戦争に負けたとしたら、何と国民に説明するのか。成功率は絶無ではない。もし、これをやらないで、大和がどこかの軍港に繋留されたまま野たれ死にしたら、非常な税金をつかって(当時のお金で1億3000万円)、世界無敵の戦艦大和をつくった。それをなんだ、無用の長物と言われるぞ。そうしたら、今後の日本は成り立たない」
 まことに身勝手な論理です。大和の乗組員3000人の生命をなんとも思っていません。軍当局は人命より軍の体裁、見栄を大切にしたというわけです。
 そして、案の定、大和は目的地に到達する前に、アメリカ軍機にボコボコにされ、巨砲をつかうこともなく、あえなく撃沈されてしまいます。乗組員3000人とともに・・・。
 いまも大和は沖縄近くの海底に沈んだまま。
 海上特攻作戦は戦局に何らの影響も与えずに、大和沈没の事実も終戦まで国民に知らされることもなかった。
 戦争のむごさ、軍上層部の無責任さを明らかにした本でもあります。
 昨年10月、広島県呉市にある大和ミュージアムを見学しました。いまの安倍政権がすすめている世論操作に踊らされてはいけないとつくづく思ったことでした。
(2013年7月刊。1900円+税)

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