弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2013年11月15日

保守論壇亡国論

社会


著者  山崎 行太郎 、 出版  K&Kプレス

私と同じく団塊の世代の著者は自称するところ強固な保守派です。その保守派からして、今の保守論壇の「思想的劣化」と「思想的退廃」は許せないと、厳しく弾劾しています。
 いまや多数派を形成しているのは「保守」であり、「右翼」である。かつては多数派は「左翼」であり、「革新」勢力だったが、今や変わった。
 昨今の保守思想家たちには、「作品」と呼べるような仕事、つまり業績がない。
 安倍晋三の政治家としての限界と悲劇は明らかである。あまりにも政治的言動が軽すぎる。その根本原因は、安倍晋三が妄信し、影響を受けている保守論壇や保守思想家たちにある。
 保守のイデオロギー化、理論化をすすめたのは、左翼から保守への転向組である。つまり、「遅れてやってきた保守」である。西部邁、小林よしのり、藤岡信勝など。彼らは左翼仕込みの手法をつかって、保守論壇の「左翼化」を推進した。その結果、保守の定義を題目のように唱和するだけで、保守として振る舞えるようになった。
 左翼論壇の思想的劣化と知的退廃という現実があったからこそ、保守論壇の思想的劣化と知的退廃は始まった。小林よしのりというギャグ漫画家が保守論壇をリードしてきたという事実が、まさしく、保守論壇の思想的な貧しさを象徴している。
 桜井よし子には、オリジナルな議論・主張は見られない。桜井は、保守論壇の多数意見、「偏狭なナショナリズム」を代弁しているだけにすぎない。桜井は福島みずほとの架空対談まで捏造した。これはジャーナリストとしての品格の問題である。流行の話題があるとすぐに飛びつき、専門家気どりの発言を繰り返すところに桜井の特徴がある。
 桜井には、はじめから現実や真実を見ようとする姿勢が欠けている。
 小林よしのりを、一時的にせよ、保守論壇のスターにしたのは西部邁だ。転向保守ほど、過激な保守思想に走る。西部にも、これが認められる。そして、西部邁には、代表作と呼べる作品がない。
 渡部昇一の書くものは、学問や学問的能力とは無縁のものだ。渡部昇一の昭和史は、受動史観である。受動史観とは、悪いことは、すべて他人の責任とするもの。中国が悪い。ロシアが悪い。アメリカが悪い。このように言いつつ、日本は悪くない。自分は悪くないと言いはる。
思考力の劣化とは、深く考えること、粘り強く考えることを嫌い、わかりやすさと単純明快な答えを求める。そこから、存在の喪失が始まる。
 抜粋して紹介しましたが、なるほどと思うところがたくさんありました。それにしても保守派論退の退廃はひどいものだと私も思います。
(2013年9月刊。1400円+税)

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