弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2013年8月 5日

ボケたって、いいじゃない

人間

著者   関口 祐加 、 出版  飛鳥新社

とても新鮮で、かつ、ショッキングな本でした。
 まず第一に、アルツハイマーになった実母の病態を実の娘が映像で記録して、映画館で上映される映画として完成させたということです。これって、本当にすごいことですよね。日頃から、親子のあいだで一定の距離感覚がなければ、とても考えつかないし、実行できなかったことでしょうね。
 第二に、自分のことが映画になったことを知ったアルツハイマーの母親の反応が衝撃的です。母親が何と言ったと思いますか・・・?
 「テレビに出ていたって、あんた、有名なの?」
 「なんか、わたすも一緒に出ているらしいんだよ」
 「へえ、ま、せいぜいあたすのネタで稼いでちょうだい」
 娘が自分のボケをネタに映画をとっていて、それで有名になってお金を稼いでいるのをアルツハイマーの母親が理解して、それを許し、娘とともに笑うのです。これって、すごいことですよね。とても信じられません。
 第三に、アルツハイマー病にかかるとは、どういうことかを知りました。
アルツハイマー病になると、その人の脳の働きが全部ダメになってしまうと思われがち。しかし、初期から中等度では、脳の働きが悪くなっているのは5%以下だけ。物忘れや判断など、ほんの一部だけ。残りの95%以上は正常な脳の働きができる。そこで喜んだり、戸惑ったり、怒ったりする。そこを忘れてしまうと正しいアプローチはできない。
 なーるほど、これは目からウロコが落ちた気がしました。
 アルツハイマーの初期は、本人もいったい何が起こっているのかが分からず、怖がっているのがヒシヒシと伝わってくる。一番怖いのは、本人なんだ・・・。自分が忘れてしまっていること、分からなくなってしまっていることは、本人も家族も認めたくない。認めるのが怖い。できないことを知られたくない。分からなくなることが怖いという思いが、外出から遠のかせている。
 一見すると明るい感じというのは、典型的なアルツハイマーの所見だ。そして、数字に強い。計算問題はできることが多い。
 そして、いままで抑えられていた喜怒哀楽が、認知症によってストレートに出るようになる。しつこくふつふつと胸の中でくすぶって消えなかった火種が、ついに発火した。ようやく認知症の力を借りて表に出てきた。本当は、母親は料理も商売も風呂も嫌いだった。ガリ勉で友だちもいなかった。そんな自分を押し殺して、隠して、一生けん命に生きてきた。それは認知症によって解放され、いいたいことを言い、やりたいことしかやらなくなった。
「うっせえなー!」は自由人になれた証拠なのである。
介護をしている人に一番必要なのは、精神の健全だと考える。たとえば、自分の好きな仕事や趣味を続けているとか、自分の時間をもつことがとても大切だ。そして、何よりも感受性を磨くこと、みずみずしい感受性と好奇心を保つこと。
 老化現象とは、イマジネーションがなくなっていくこと。
 すばらしい本です。あなたに一読を強くおすすめします。読んで損することは絶対にありません。だって、あなたも私も、いつかは到来する可能性のある身なのですから・・・。
(2013年6月刊。1333円+税)

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー