弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2013年7月24日

毛沢東が神棚から下りる日

中国

著者  堀江 義人 、 出版  平凡社

土地が「揺銭樹」になった。揺銭樹とは、金のなる木のこと。「土地財政」という言葉がある。地方政府が農地や土地住民の土地を安価で買いたたき、企業や開発業者に高く売りつける。その差額の土地譲渡金を財政収入に繰り入れること。土地譲渡金の地方財政に占める割合は、2001年の16.6%から2010年に76.6%にまで増えた。
ある県には、玉山幇(組)、青龍幇、菜刀幇など、多くのヤクザ組織があり、誰もが、その実力と役割を熟知している。
 中国は事実上の準分裂国家である。北京人の優越感、上海人の排除主義の一方で、貧しい河南人や安徽人は差別の対象となる。戸籍は準国籍のようなもの。
 新市民と呼ばれる北京の外来者は700万人以上いるが、彼等は北京に10年住んでも20年住んでも、北京戸籍を手を入れることは、ほとんど期待できない。
 新市民には市民待遇がほとんどない。福祉はゼロ、公的住宅も買えない。
 農村と都市部の福利厚生面の生涯格差は50万元、北京だと100万元以上にもなる。
本物の北京戸籍を警察関係者から裏取引で買おうとしたら、20万元から30万元は必要という。
 農村の子弟が重点大学に入る比率は1990年代から減り続けている。北京大学では3割から1割にダウンした。
北京には閉鎖式住宅区が2種類ある。一つは金持ちの高級住宅、もう一つは、農民工の封村だ。
 中国には執行猶予つき死刑という、日本にはない制度がある。猶予期間は通常2年間、服役態度がよければ、懲役刑に減刑される。
 中国の憲法では、法院(裁判所)が独立した審判権をもつとしているが、現実には、党の政法委の束縛を受けている。上級法院は下級法院を始動する形になっている。個別案件に事前に介入し、具体的な案件の対応や判決を指示する。下級法院のほうから、おうかがいを立て、報告することもある。二審制といっても、実質的には一審制のようなもの。
 法院内にも主従関係がある。裁判官は法廷に、廷長は院長に、合議廷は審判委員会に従わなければならない。
中国は、世界でもっとも拝金主義にまみれた国である。庶民は民主主義より豚肉だ。
 中国は巨大なタンカーのようなもので、どの方向に向かって航行しているのか、分かりにくい。恐らく乗務員も誰一人として目的地が分からず、漂流しているのでしょう。
毛沢東に批判された人物には、共通の特徴がある。勇気を出して本当のことを話したのだ。
 毛沢東にとって個人崇拝、つまり神格化は政敵を倒すためのもの。そのターゲットは蒋介石と劉少奇の二人だと明言した。
文革の主な責任は毛沢東にあるが、毛を否定すると中国共産党の統治の正当性を失うから、鄧小平の政治的判断で、林彪と四人組に押しつけた。ソ連にはスターリンを否定してもレーニンがいて、正当性を得ていた。しかし、中国には毛沢東しかいないので、毛を全面否定するわけにはいかない。だから、毛沢東の早期と晩年を分けて評価することにした。
「偉大な」毛沢東のおかげで、中国は発展がひどく遅れてしまったわけです。それでも、現物の毛沢東を知らない世代が増えていますので、単純に高く毛沢東を再評価する動きさえあります。
 目の離せない中国を知ることのできる本です。
(2013年1月刊。1800円+税)
 真夏の夜の楽しみは、ベランダから満月を眺めることです。ひんやりした夜風に身体の火照りをさましながら、望遠鏡で月の素顔を見つめます。どうして、こんなに大きいものが空に浮かんでいるのか、不思議です。しかも宇宙の本を読むと、実は月も地球も自転しているだけではなく猛烈なスピードで動いているというのです。じっとしているようにしか思えない月のあばたを眺めていると、俗世間のホコリが洗い流されます。

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