弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2013年6月20日

アメリカ・ロースクールの凋落

アメリカ

著者  ブライアン・タマナハ 、 出版  花伝社

日本がモデルとしたアメリカのロースクールの現状を紹介した本です。アメリカのロースクール生の借金漬けの現実には驚かされますが、日本でも既に似たような状況が生まれています。決して他人事(ひとごと)ではありません。それでは、ロースクールにはまったく良いところはないのか、その点は体験していない者として、まだよく分からないところがあります。司法試験の合格者を私たちのときのような500人から3倍の1500人に増やした点は良かったと思います。ただし、給費制をなくしたのは間違いですし、司法研修所での2年間の修習をなくしたのも誤りだったと言えるでしょう。それに代わるものとしてのロースクールは全否定すべきものなのでしょうか・・・。
 アメリカのロースクールの年間授業料は5万ドルをこえている。これに生活費を加えると、ロースクールで学位を取るのにコストが20万ドルを要する。9%近くのロースクール生が借金する平均額は10万ドルに達する。そして、2010年のロースクール卒業生の初任給の中央値は6万3000ドルだ。これでは借金返済は大変になる。その結果、アメリカのロースクールは、もはや凋落社会になりつつある。
ロースクール教授の引き抜きでしのぎを削っていて、20万ドルというのも珍しくない。
 ロースクールの志願者は1991年に10万人というのがピークで1998年には7万人にまで落ち込んだ。2004年には10万人に戻った。
 ロースクール生は、社会経済的に裕福な層に過度に集中しており、エリート校で顕著である。上位10校は社会経済上の上位10%の家庭出身の学生の集中度がもっとも高く(57%)、上位100校では、それがもっとも低かったロースクール生は、金持ちと上位の中産階級の白人の子どもたちで占められていくだろう。
10万ドルの借金をかかえたロースクール生にとって、それは企業法務に就職せよと言う強い経済的圧力となる。アメリカでは、学生がロースクールに背を向けはじめている。志願者数は、長期低落傾向にある。
皮肉なことに、アメリカには中・下層階級の大衆が法律上の援助を受けられないでいるが、そのときロースクール卒業生の過剰供給がある。
 法律問題をかかえた低所得者の5人に1人が弁護士の支援を受けられない。ニュー・ハンプシャーでは、地裁事件の85%、高裁事件の48%が本人訴訟であり、DV事件の97%が一方当事者は弁護士なしである。
 カリフォルニア州の明渡事件の9%が弁護士なし。マサチューセッツでは10万件の民事事件が本人訴訟であり、ワシントンDCでは認知事件被告の98%、住宅関係訴訟の被告の97%に弁護士がついていない。
 このように、法律家の援助を受けられない相当数の法律需要と、仕事を見つけることのできない法律家とがアメリカには同居している。これは悲劇としか言いようがありません。
 全国の多くのロースクールの教授たちは、身近な人には勧めない学位を自分たちの学生に売りつけている。
 この日本で、40年ほど弁護士をしてきて、依然として弁護士はもっともっと求められていると実感しています。ただし、自律して生きていけるためには人間力、つまりコミュニケーション能力をみがく必要があります。それがなくてもやっていけると誤解(錯覚)している人が少なくないのも現実です。その点の見きわめをつけたら、やっぱり弁護士はもっともっと必要だと思うのです。その意味で「一発勝負の方がよほど望ましい」という訳者の意見に私は同調できません。
 さらに、「市民の弁護士へのアクセス障害は存在しないが、極めて小さいものだった」と書いてあるのには目を疑いました。日本のどこを見て、そんなことが言えるのでしょうか、信じられません。
 それはともかく、アメリカのロースクールの現実を知る本として、一読をおすすめします。
(2013年4月刊。2200円+税)

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー