弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2013年5月 4日

満州国の実態

日本史(現代史)

著者  小林英夫・張志強 、 出版  小学館

「検閲された手紙が語る」というタイトルの本です。戦前の関東憲兵隊の『通信検閲月報』を掘り起こして満州国の実態を明らかにした貴重な労作です。
 戦後の1953年、旧関東軍憲兵司令部跡地(新京。現・長春)の敷地内で事務所拡張工事の際に偶然に地中から掘り出された。長く地中に埋められていたので、史料の大部分は癒着し、また腐食してボロボロになっていた。終戦時に焼却されず、掘られた穴に埋められた文書だった。
 関東憲兵隊は、この報告書『検閲月報』を関東軍司令官をはじめとして憲兵隊司令部などに送っていました。
ソ連との間のノモンハン事件についても、「実際には負けている」「実になさけない次第」「近代兵器の枠を集めたソ連と戦うには、肉弾や精神ではやはりダメ。草木のない平地を攻撃するなんて無謀」という声のあったことが紹介されている。この閲覧によって、手紙は送った相手方には届かなかった。
 戦時下の満州国の実情はとても王道楽土と言えるものではありませんでした。ともかく食べるものが少ないのです。野菜が食べられないため、女性は病気になってしまいました。
 「満州の配給制度は、内地よりずっと生活困難である。開拓団(移民団)は、実に可哀想なもの。移民などに来るものではない。あまり宣伝に乗せられないように」
 「匪賊と戦闘したが、ほとんど軍隊と変わらない。要するに、匪賊の方が強い」
 満州国の農産物は太平洋戦争をたたかう日本への重要輸出品であったから、満州の中国人の食糧配給を改善する政策は行われなかった。
 1940年代の満州国は、出稼ぎ地としての魅力を失っていた。
 この当時の在満朝鮮人社会には、共産主義思想に根ざした、解放願望が強く存在していた。
「当地の人生観は、弱肉強食と名付けたらいい」と手紙に書かれていた。
 検閲しても実は、あまり大きな成果はなかった。むしろ重要な情報は暗号や無線で流れていたので、通信部隊の活動が重要だった。牡丹江市内に無線傍受の場所を10ヶ所設け、24時間体制で監視していた。そして無線で情報を流すアジトをほとんど毎日、摘発していた。
満州国の実情をナマの声で知らせてくれる貴重な本だと思いました。
(2006年6月刊。3200円+税)

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