弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2013年4月10日

生活保護とあたし

社会

著者  和久井 みちる 、 出版  あけび書房

先日、身近に起きたことです。生活保護を受けて生活している人が、お昼にうどん屋に入って350円のうどんを食べました。すると、それを近所の人が見ていて、保護課に電話したのです。「保護を受けているくせに、外食なんかして、ぜいたくだ」。そこで、保護課は、その通報を受けて本人に電話して注意をしました。ええーっ、生活保護を受けていたら、350円のうどんも食べてはいけないだなんて・・・。
 保護課に通報した人は年金生活者ではなかったでしょうか。毎日、苦しい生活を余儀なくされている年金受給者は、つい生活保護を受けて生活している人を妬みがちになるのです。弱い者同士がいがみあう世の中になっています。不幸の限りです。
日本はアメリカに次いで世界で二番目に大金持ちの多い国ですが、同じように貧しい人が、どんどん増えている現実があります。この本は、そんな生活保護を受けて生活してる人の実感をこめたレポートです。著者は2007年から3年半のあいだ、生活保護を受けていました。
2007年ころに16万人の生活保護利用者だったのが、2012年11月には212万人と50万人以上も増えている。生活保護利用者は怠け者ではない。生活保護制度は人間をダメにするものでもない。
 著者は、この2つを本を通じて強調しています。私もまったく同感です。生活保護は、日本社会のセーフティーネットとして、これからも十分に有効活用されるべきものです。
 生活保護を申請しようとすると、「水際(みずぎわ)作戦」に直面する。要するに、生活保護を受けられるはずなのに、申請書がなかなかもらえないということ。申請書を書くときには、役所のフロアから一般の人には見えない奥の小部屋に招かれる。そして、福祉事務所には警察官OBが配置されるようになった。つまり、不正受給をチェックしようということです。
 知人から、お米や野菜をもらったときにも、それを「収入」として記入しなくてはいけない。
 ま、まさか・・・という、本当の話です。これでは、生活保護利用者はフツーの社会生活を送れないことになってしまいます。そして、それは「自立」を促すという趣旨にも反しますよね。
生活保護世帯のうちの母子世帯は、8割以上が働いている。「不正受給」は、支給額の0.4%にすぎない。国会議員の「不正」献金とは桁違いでしかないのに、マスコミはすぐに針小棒大に報道する。ひどいものです。
生活保護を申請して需給が決まるまでの2週間に、70頁に及ぶ調査の記録がある。これまた、税金のムダづかいのようなものですよね。
生活保護利用者が病院で治療を受けるときには、保険証がなく、「医療券」を示す。
 同じく、薬をもらうときには、「調剤券」が必要となる。生活保護利用者は、特別な場合を除いて、指定医療機関にしか受診できない。自由に選ぶことは許されない。
 生活保護利用者のなかには、子どものころに親と別れたり、施設で育ったりして、家庭の台所の風景を記憶しておらず、調理の場面をほとんど経験せずに育ってきた人も少なくない。
 ホームレス状態の人や、生活が困窮している人が食べているものは、とにかく空腹を紛らわすことが第一なので、ご飯や麺類といった炭水化物が多い。そのとき、魚や野菜をバランスよくとるような、望ましい食生活はとうていとれない。そうすると、高血圧とか高血糖になってしまう。つまり、極端にかたよった食生活になる。ぜいたくしているから、糖尿病になるのではない。
 生活保護利用者は孤独な人が本当に多い。そして、いろんな事情をかかえている。そして、自己肯定感が抑制されている。そのうえ、ケースワーカーから「恋愛禁止」を言い渡された人までいる。
 生活保護利用者の「年収」分が国会議員の1ヶ月の報酬(140万円)である。そんな議員が、「生活保護利用者はぜいたくだ」なんてほえるのですから、世の中は間違っていますよね。
 生活保護を受けるのは国民の当然の権利です。もっと大らかに受けいれたいものです。そして、生活保護を削減したら最低賃金やら年金にも悪影響を及ぼすのです。
 底辺の人同士が足をひっぱりあうことのない世の中にしたいものだと、この本を読みながらつくづく思いました。
(2012年12月刊。1400円+税)

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