弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2013年1月29日

暴走する地方自治

社会

著者  田村 秀 、 出版  ちくま新書

先の衆議院総選挙において、市長や知事が本来の仕事を放り出して国政選挙に奔走し、それをマスコミも当然視していました。本当に問題ないのでしょうか・・・?
 ほとんど市長としての仕事をしないのに給料は全額もらっていたようです(少なくとも返上したというニュースは私の知る限りありませんでした)。部下の市職員に対しては口やかましく職務専念義務を強調していたのに、まったく矛盾しているとしか思えません。こんな口先だけの政治家って、いやですよね。
 暴走する首長たちがいる。東京・名古屋・大阪。そして、かつては鹿児島、阿久根市にも・・・。彼らは、国や地方議会、公務員などを抵抗勢力に位置づけ、単身、地方自治体の本丸に乗り込んで改革を進めているように演出する。そして有権者からの拍手喝采を受ける。こんな地方政治の劇場化は、いったい住民に何をもたらすのか、よくよく考えてみる必要がある。まことに同感な指摘です。
 大阪の抱えている問題は、果たして地方自治体の構造をいじったくらいで、大阪経済が再生の道に向かうのか、根本的な疑問がある。大阪都市構想は、大阪を一つにすると言いながら、その中身は、大阪を解体することにある。もし道州制が導入されたら、大阪都構想は大阪を破壊するための単なる一里塚でしかない。これでは、「するする詐欺」ではないか。関西州が誕生したとき、神戸市や京都市はあっても、大阪都はなく、大阪は人口30万人から50万人に分割・再編され、大阪を代表する自治体は存在しなくなる。大阪そのものの解体である。いやはや、とんだことですよね。まるで詐欺商法でしょう。
 名古屋市の減税プランによると、所得の低い層40万人には減税の恩恵はない。恩恵を受けるのは高所得の人のみ。
改革派首長は、たびたびマスコミに登場している。マスコミの側が積極的に取りあげている。視聴率を上げるためだ。抵抗勢力を明確にして対決姿勢を強めることは、マスコミに恰好のネタを提供することになる。
 そして、彼らは外部からの人材登用に積極的である。ところが、政治的任用を乱発すると、組織のなかで軋轢を招きやすい。
 テレビ局がワイドショーなどで好意的に扱ってきたのを改める必要がある。
 ポピュリズムは、地方を、そして日本という国を滅ぼす。
 東京大学工学部を卒業してキャリア官僚になり、いまでは新潟大学の教授になっている著者の話には説得力があると思いました。
(2012年5月刊。780円+税)

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