弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2013年1月24日

ブラック企業

社会

著者  今野 晴貴 、 出版  文春新書

だれでも知っている日本有数の大企業までもブラック企業なんですね。おどろきました。まあ、たしかに日本経団連は人間とりわけ若者の使い捨てを率先してすすめていますから、有名大企業がブラック企業だとしても驚くことはないのでしょう。
 でも、こんな事をしていたら、日本の若者をダメにしてしまうし、ひいては日本の将来をお先まっ暗にしてしまいます。一企業の私的利益に日本の若者ひいては日本の将来を奪わせてはなりません。
 「おまえたちは人間のクズだ。なぜなら、今の時点で会社に利益をもたらすヤツが一人もいないから。お前たちは先輩社員が稼いできた利益を横取りしているクズなのだ」
 こんなことを堂々と新入社員の前で演説する人事担当役員がいるというのです。ひどい話です。自分の胸に手をあてて考え直してほしいものです。実は、あなたもかつてはクズだったんですよね。そして、定年退職してからの年金を負担しているのは誰なんですか。あなたが、「クズ」と決めつけた「若者」たちではないのですか・・・。
 人事担当役員が「カウンセリング」を始めると、徹底的に自己否定することを強いられる。会社によるハラスメント手法に共通するのは、努力しても何をしても罵られ、絶え間なく否定されるということ。新入社員研修では、ひたすら精神面の指導が行われる。
 技術の向上や基本的な社会人としてのマナーを教えることが目的というより、従順さを要求し、それを受け入れる者を選抜することにある。
○○シロでは、店舗運営のマニュアルを暗記することが求められる。社外秘の資料なので、自宅で復習するためには店で書き写すことが求められる。明らかに不効率な方法だが、そこでは、根気があるか、会社に忠実かを見ている。
 半年で店長になれるのは、4分の1から3分の1くらい。入社して2年間は本当に採用されるために活動しているようなもの。その間に半分は辞める。店長になる過程は、同時にリタイアする過程でもある。
○○シロでは、みずからの過剰労働やパワハラを労働災害だと実は理解している。
成果主義のような目に見える効率一辺倒の企業体質は労働基準法を無視し、働く人を使い捨てします。
ブラック企業問題は、若者の未来を奪い、さらには少子化を引き起こす。これは日本の社会保障や税制を根幹から揺るがす問題である。同時に、ブラック企業は、消費者の安全を脅かし、社会の技術水準にも影響を与える。ブラック企業の規制を実現してこそ、日本経済の効率性を高め、社会の発展を実現できる。
 なんでも「規制緩和」万能の風潮が強まっていますが、とんでもありません。労働者保護は、日本社会の健全な発展に必要不可欠なものです。ぜひ立ちどまって考え直してほしいと思いました。
 まだ30歳という若手の著者です。大変勉強になりました。ひき続き、がんばってください。
(2012年12月刊。770円+税)

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