弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2012年12月17日

狼の群れと暮らした男

生き物

著者  ショーン・エリス 、 出版  築地書館

アメリカのロッキー山脈に入って2年間、狼と一緒に暮らした男性の手記です。信じられない話です。いったい、2年間、どうやって森の中で生活していたのでしょうか。
 狼がとってきた獲物の生肉を分けてもらっていただなんて、信じられませんよね。そんな過酷な体験をもとにオオカミの生態が詳細に紹介されています。
オオカミは臆病で、とても高度な社会組織をもった知能の高い動物である。血に飢えた動物という印象は正しくない。その昔、オオカミと人間は共生しており、互いに尊敬し、互いの生き方を学びあっていた。
野生のオオカミが雪の中を走るときには、先頭のオオカミはしばらくすると隊列の後尾につく。これは狩猟のとき、すべてのオオカミが十分なエネルギーを残して、すばやく先頭につけるようにするためだ。軍隊の雪中行軍も同じようにする。
オオカミは新入りが来たとき、信頼できるかどうかを見きわめる。どうやるのか・・・。咬まれたことに新入りがどう反応するかを見る。群れに加わろうとする新入りのオオカミは、自分の一番攻撃されやすい喉をすぐに差し出し、ケンカに来たのではないことを示す。受け入れ側のオオカミは本当に脅威がないと納得するまで、新入りの圧力を加える。それに抵抗したり、悲鳴を上げたりしたら、受け入れられることはない。
 著者も新入りテストを受けたとき、喉をオオカミに差し出し、歯がたをつけられていたといいます。ガブリとやられたら、そこで、一巻の終わりです。うひゃあ、す、すごーい・・・。
オオカミの世界では、いくつかの咬みあいがコミュニケーションの大切な要素である。
群れの下位のオオカミたちは、上位のオオカミの決定に疑問をさしはさまない。彼らは歩兵であり、考えることは彼らの仕事ではない。
オオカミのコミュニケーションでもっとも頻繁につかう体の部位はクビと喉だが、そこはまた一番手厚く守られた場所でもある。
 アルファ・オオカミは意思決定者であり、彼らはいないと群れにはリーダーがいなくなるから、彼らが一番重要なメンバーである。だから、彼らが生き残ることが何より優先される。食べ物が少ないときは、彼らがまず食べ彼らしか食べないこともある。ほかのメンバーは、子オオカミさえも、空腹になり必要なら餓死する。だから、群れの他のメンバーは、ベータ・オオカミの匂いのついたものに手をつける馬鹿なまねはしない。
 オオカミは殺戮の力をもっており、いつでもそれを使えることを示すが、どうしようもないときにしかそれを行使しない。彼らは、家族を守るためと、家族が冬を越せるだけの食糧を確保するためには徹底的に戦う。
オオカミにライバルの群れがいないと、生きることが楽すぎて、群れの中で互いに歯向かいはじめる。
前向きに考え続けることが命をつなぐのだ。どんな状況にいようと、どんなに絶望的に見えても、急いで選択肢を探さなければいけない。気持ちを強くもたねば、死あるのみ。オオカミも同じで、決してあきらめない。決して自分をみじめだとは思わない。彼らは致命傷を負っても走り続ける。
 オオカミが再会を喜ぶ儀式は、顔や口のまわりを強烈に舐めまくる。
 オオカミの妊娠期間は63日。求愛期になると、オスたちのエネルギーは、とんでもなく高まる。
 アルファ(首領)のメスが狩猟係のオオカミに対し、ちょうどそのときの彼らの生活に必要な食糧となる餌を狙ってこいと命令するのであり、それが彼らの群れにおける社会的序列を維持するうえでも、大切な役割を果たしている。
 オオカミの位は食べ物で示される。捕まえた獲物のもっとも栄養分の多いところと内臓は常にアルファ・ペアのものである。それゆえ、アルファの匂いとその結果の権威は、それ以外のうま味の少ないものしか食べない、位の下位のオオカミとはまったく違う。
オオカミの必要としている栄養を提供できる健康な動物だと目をつけたら、一週間半かけても追いかける。
 アルファのペアが首領になり、子を産む。彼らは、群れという家族全体の福利のための意思決定をする。ほかにベータつまりエンフォーサー(用心棒)と、テスター(品質管理担当)がいる。
 オス・オオカミの役割は、ケンカを仲裁し、群れのなかの緊張を緩和すること。
 アルファは意思決定のオオカミ。アルファは頭脳であり、群れでもっとも知能の高いオオカミ。だから、一番価値の高い存在である。ベータは用心棒、ボディーガードであり、しつけ係であり、純粋な攻撃タイプである。考えることは役目でないので、考える必要はない。
 ハンターは、多くの場合、メスがなる。メスのほうが軽く、オスより足が速いから。
 ハンターは追跡と殺しはするが、何を殺すかを決めるのはアルファのメスの仕事である。オオカミの食べる食物は3種類に分けられる。基礎体力と健康維持のための食物、極寒の気象条件の中でも体を温めるような脂肪分の多い動物などの生命維持食物、群れの構造を維持するための社交的食物である。
 アルファのペアは、地位を守るために食事の大部分を内臓で賄わねばならない。
オオカミと一緒に暮らしていたとき、著者はオオカミの飼ってきた獲物の肉をナマで食べていたといいます。とても信じられませんが、テレビで放映したそうですので、ぜひみてみたいと思いました。BBC放送の「ウルフマンと暮らす」「オオカミの中の男」です。ユーチューブでもみられるのでしょうか・・・。
(2012年10月刊。2400円+税)

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