弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2012年12月16日

幕が上がる

社会

著者  平田 オリザ 、 出版  講談社

爽快な気分にさせてくれる青春小説でした。
 高校生がマラソンでも合唱コンクールでもなくて、演劇コンクールに出場する話です。
 立派な大人が高校生の演劇部を描いても、この本のように現代高校生の気分を見事に反映できるものなんだと改めて驚嘆したことでした。
 もちろん、高校生たちにも綿密な取材をしたのでしょうね。結論は見えているようなものなのですが、そこに至る経過が若者の心理と置かれている社会環境(入試など)を反映した会話とともに、生き生きと描かれているので、作中人物になりきってしまえるのです。ここらは作家の腕前ですね。
東京近郊の海のない県にある高校という設定です。山梨県のつもりで私は読みすすめました。演劇に関心があり、大学でも演劇部に入りたいという高校生が主人公です。ここらあたりは私には無縁の世界です。私にとって、音楽も劇も自分の人生にはまるで向かない分野でしかありません。映画をみるのは大好きなのですが、コンサートも劇も久しく縁がありません。
部員の少ない弱小演劇部に福顧問として若い女性美術教師が就任したことから、話は急転回をとげます。なんと、その女性教師は大学時代に演劇の女王だったというのです。
 高校演劇はクラブ全体の力が集まらないと勝てない。俳優はそんなにうまくならない。だから、本当にうまい顧問の創作劇は、下手だけどがんばっている子には、短いセリフで確実に受けがとれたり泣かせるような役をつくる。
 静か系というのは、静かな演劇といって、大体、日常生活を描いている。
 口語系というのは、セリフはリアルで、話がちょっとファンタジーとか、ファンタジーでなくてもリアルでないとか・・・。
 宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」を題材にした演劇を主人公につくりあげていく過程がまた読ませます。これは、ベースに宮沢賢治のイメージがあるのでぴんと来るのでしょうね。
 久しぶりに心の洗われる思いのする本でした。
(2012年11月刊。1300円+税)

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