弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2012年11月23日

ともにがんばりましょう

社会

著者   塩田 武士 、 出版   講談社 

 戦後日本社会で、今ほど労働組合の影が薄いときはないのではないでしょうか・・・。
 戦後、総評は絶大な力をもっていました。労働者の生活と権利を守る砦として労働組合が確固として存在として存在していました。これに対して、同盟というのは、会社の労務担当がつくったものという認識が一般的であり、スト破りというイメージがつきまとっていたと思います。総評と同盟が一体化して連合となってから、労働組合と会社とは平和共存というイメージでとらえられるようになり、闘争というフンイキが消えてしまいました。フランスでは、今でもストライキもデモ行進もあたりまえの光景です。なにしろ警察官や裁判官にまで組合があり、デモ行進するのですから・・・
 ストライキがあり、集会やデモ行進が普通にあっていました。私が大学生のころ、40年前は順法闘争というのもあって、東京の国電(山手線など)は、時間遅延があたりまえでした。みんな困っていましたが、ストライキだから仕方がないというあきらめもありました。
 そして、1週間も続いたスト権ストが最後の仇花(あだばな)のように、ストライキはなくなり、今や死語と化してしまったようです。ところが、この本は、労働組合とは何をするものなのか、会社との団交はどうすすめられていくのかについて、教科書のような展開です。
 ええーっ、労働組合が今日では小説の題材(テーマ)となるほど珍しいものになってしまったんだなと思ったことです。
 でも、書かれている内容は、しごくあたりまえのことばかりです。黙っていたら経営の論理がまかり通ってしまい、労働者の権利なんて、まるで無視されてしまう。労働組合は今でも大いに役立つ存在なのだということを、しっかり実感させてくれます。
 多くの労働者の矛盾する要求をいかにまとめあげていくか。経営者側の論理を団交のなかで、いかにして論破するのか。見事なストーリー展開で思わずガンバレと拍手を送りたくなります。
 著者が神戸新聞社に勤めていたときの体験をもとにした小説だと思いました。
 労働組合をよみがえらせたいと考えている人に、とくに一読をおすすめします。
(2012年7月刊。1500円+税)

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