弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2012年7月26日

ピダハン

アメリカ

著者  ダニエル・L・エヴェレット  、 出版   みすず書房   

 1977年12月、26歳の著者はアマゾンの奥地に住む未開の部族、ピダハンにキリスト教を伝えようとして出かけていったのです。とてつもない奥地にピダハンは住んでいました。
 初めてピダハンに出会ったときに何より印象的だったのは、みんながそれはそれは幸せそうに見えたこと。どの顔も笑みに彩られ、ふくれっつらをしている者や、ふさぎ込んでいる者は一人もいない。
 西洋人の一家がアマゾンの村で暮らすための準備を整えるのは容易ではない。ピダハンの村に行く前には、何百ドルもの薬を用意した。アスピリンやヘビの解毒剤、そしてマラリアの治療薬だ。
 ピダハン語には、多くの言語にみられる要素が欠けている。とりわけ文章のつなげ方が恐ろしく難しい。ピダハン語には比較級がない。色を表す単語もなく、赤だったら、「あれは血みたいだ」といい、緑だったら、「まだ熟していない」という。また、完了した過去を語る言葉もない。ピダハンは、現存するどのような言語にも似ていない。
 ピダハン語には、数も勘定も、名色もない。ピダハンは血縁関係が単純だ。
ピダハン語は、だいたい、非常に単純だ。ピダハンは外国の恩恵や哲学、技術などを取りいれようとはいない。ピダハン語には、心配するというのに対応する言葉がない。今では、ピダハン語を話す人は400人もいない。
 ピダハンが病気になったら、その人物が命を落とす可能性は高い。母親が死んでも、子どもが死んでも、伴侶が死んでも、狩りをし、魚を獲り、食料を集めなければならない。誰も代わってはくれない。ピダハンの生活に、死がのんびりと腰を落ち着ける余地はない。
身内が死にかけているからといって、日課をおろそかにすることは許されない。
ピダハンの家は恐ろしく簡素だ。家はただ、雨や太陽を適度に遮断して眠れる場所であればいい。大人は砂の上に平気で寝るし、照りつける太陽の下で、一日じゅうでも座っていられる。
ピダハンは道具類をほとんど作らない。芸術作品は皆無で、物を加工することもまずない。大型で強力な弓と矢はつくる。加工品を作るにしても長くもたせるようなものは作らない。加工品としてネックレスはある。それは美しいというより、毎日のように見ている悪霊を祓うためのもの。
 ピダハンな、外の世界の知識や習慣が、どんなに役に立つと思っても、易々とはとり入れない。
 ピダハンは狩りや漁をしたら、獲物はすぐに食べきってしまう。自分用に加工してとっておくことはしない。ピダハンは空腹を自分を鍛えるいい方法だと考える。平均的な体格のピダハンは女でも男でも身長150センチから160センチ。体重は45~56キロほど。誰もが痩せて力強いピダハンの人々は、魚やバナナ、森にすむ野生動物、幼虫。ブラジルナッツ、電気ウナギ、カワウソ、ワニ、昆虫、ウナギなど、周囲の環境にあるものを何でも食べる。ただし、爬虫類と両生類は通常、口にしない。
 ジャングルでは熟睡するのは危険だ。だから「寝るなよ。ヘビがいるから」と声をかけあう。ピダハンの家庭には、たいていアルミ鍋とスプーンやナイフなどがあるだけ。
ピダハンは人の性生活をこだわりなく話題にする。結婚していないピダハンは、気持ちのおもむくままに性交する。夫婦であれば、性交するためにただジャングルに入っていけばいい。歌と踊りは、たいてい満月の夜に催され、その間は、結婚していないもの同士はもとより、別の相手と結婚しているもの同士でも、かなり奔放に性交する。いとことの婚姻にも制限がない。
夫婦は、これといった儀式をせずに共同生活を始め、子づくりをする。ピダハンも社会を形成している。しかし、公的な強制力というものは、ピダハン社会には存在しない。
 ピダハンは、どんなことにも笑う。自分の不幸も笑いの種にする。ピダハンは穏やかで平和的な人々だ。
 ピダハンは、一日一日を生き抜く原動力がひとえに自分自身の才覚とたくましさであることを知っている。
 ピダハンの女性は、たいていは自分ひとりで子どもを産む。ピダハンの子育てには、原則として暴力は介在しない。誰に対しても、相手が子どもであれ、大人であれ、ピダハンの社会で暴力は容認されない。
 平均45年は生きるピダハンは、原則として自分が直接に出会える人々で社会を構成している。
ピダハンは、仲間うちでは寛大で平和的だが、自分たちの土地から他者を追い出すとなると、暴力も辞さない。アマゾンでは、身を守り、狩りや食料採取などに互いに協力し合うことが命綱なのである。指導者も法も規則も必要としていない。生き延びる必要、そして追放という仕組みがあれば、社会を律していける。
 30年以上、アマゾンのピダハンの人々と一緒に暮らし、研究してきた元宣教師による観察記です。大変面白く読みました。前に、「ヤノマニ」というアマゾンの人々を観察する本を紹介しましたが、同じようなショックを受けました。
(2012年5月刊。3400円+税)

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